更新日: 2025年04月22日
#QMS基礎

【専門家監修】医療機器のQMSとは?QMS省令対応から認証取得まで徹底解説

医療機器のQMSとは?QMS省令対応から認証取得まで徹底解説

この記事の監修者

居原 範道

医療機器QMSコンサルタント

居原 範道

医療機器QMSの概要と重要性

QMS(品質マネジメントシステム)とは、製品の品質を保証し、安全かつ有効な医療機器を市場に提供するための枠組みです。

医療機器の品質は患者の生命や健康に直結するため、その管理体制には高い信頼性が求められます。医療機器分野では特に厳格な規制のもとで運用されています。

医療機器QMSは単なる製品検査の体制ではなく、設計開発から製造、出荷後の市販後監視に至るまでの一連のプロセスを管理する包括的なシステムです。医療機器の製造販売業者等は、このQMSを適切に構築・維持することで、安全で有効な医療機器を継続的に提供する責任を果たします。

医療機器QMSの特殊性

医療機器のQMSが他の産業と異なる主な特徴として、以下が挙げられます:

  • リスクアプローチ:医療機器の使用に伴うリスクの大きさに応じた管理
  • 規制要件への適合:製品を販売する各国の厳格な法規制への対応が必須
  • トレーサビリティの確保:原材料から最終製品、市販後までの追跡可能性
  • 厳格な変更管理:設計・製造工程の変更に対する厳密な管理と検証
  • 市販後の監視体制:出荷後の製品性能や安全性の継続的モニタリング

適切なQMS構築は単なる規制対応ではなく、製品品質の向上や業務効率化、そして何より患者安全の確保につながる重要な投資と考えるべきです。

また医療機器のQMSは規制要件であることに注意が必要です。様々な業態で採用されているISO 9001のQMSは顧客満足度の向上を図るために継続的改善を行うことを求めていますが、医療機器のQMSは顧客要求事項の達成が継続的に有効であることを求めています。

つまり、顧客要求事項に含まれていない顧客満足度の向上を図るための改善は求められておらず、それは企業判断で決定してよいことになります。 

医療機器QMSの法的要件と規制背景

国内法規制の枠組み

日本における医療機器QMSの法的要件は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法、通称:薬機法)に基づいています。薬機法第23条の2の5第2項第4号では、医療機器の製造販売承認の要件として、「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(QMS省令:厚生労働省令第169号)への適合が求められています。

QMSに関する法体系は、上から順に以下のように構成されています:

  • 法令:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)
  • 政令:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令
  • 省令:医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS省令)
  • 告示:各種基準を定める告示
  • 通達・通知:法令の解釈や運用に関する具体的内容(薬食発、薬生発など)
  • 事務連絡:通知の補足や訂正等(法的拘束力はないが実質的影響力がある)
  • PMDA通達:医療機器のQMS適合性調査に関する通達

通達・通知、事務連絡、PMDA通達は頻繁に発出されるため、QMSの担当者は常に最新の情報を入手することも重要です。また、法的拘束力がないことを理由で無視することは適合性調査での指摘につながります。適用しなくてよい説明が求められるため、その根拠を明示できるようにしておきましょう。

ISO 13485とQMS省令の関係

国際規格であるISO 13485(日本ではJIS Q 13485として発行)は、医療機器の品質マネジメントシステム要求事項を規定した規格です。現行のISO 13485:2016(JIS Q 13485:2018)は、医療機器のライフサイクル全体にわたる品質管理を対象としています。

QMS省令とISO 13485の関係については、以下のポイントが重要です:

  1. QMS省令はISO 13485に基づいており、基本的な要求事項は共通している
  2. 日本特有の要求事項(例:国内品質業務運営責任者の設置)が一部含まれる
  3. 表現や用語に若干の違いがあるものの、実質的な運用では大きな差異はない
  4. QMS省令への適合は医療機器製造販売業者及び製造業者に求められるが、ISO13485は医療機器販売・貸与業、修理業も適用範囲に含まれる

多くの製造販売業者は、ISO 13485に基づくQMS構築を行い、そこにQMS省令特有の要求事項を組み込むアプローチを採用しています。

医療機器QMSの基本要素とシステム構築

QMSの主要要素

医療機器QMSは、以下の主要要素で構成されます:

  1. 管理監督者の責任:品質方針・目標の設定、組織体制の構築、マネジメントレビュー
  2. 資源の管理監督:人的資源、インフラストラクチャ、作業環境の管理
  3. 製品実現:設計開発管理、購買管理、製造工程の管理、バリデーション
  4. 測定・分析・改善:工程および製品の監視測定、不適合製品の管理、データ分析、是正・予防処置
  5. 文書化要件:品質マニュアル、手順書、記録、製品標準書

QMS構築のステップバイステップガイド

医療機器QMSを構築するための一般的なステップは以下の通りです:

ステップ1:品質方針の策定

企業の経営陣は、組織の目的と方向性に合致した品質方針を策定し、全従業員に周知徹底します。品質方針を達成するための具体的な中長期目標が品質目標となります。

ステップ2:組織の構築

QMSを効果的に運用するための組織体制を構築します:

  • 管理責任者の任命:QMS全体を統括する責任者
  • 品質保証部門の設置:QMSの運用を担当する部門、専任部門でなくてもよい
  • 各部門の役割と責任の明確化:製造販売三役(総括製造販売責任者、国内品質業務運営責任者、安全管理責任者)など
  • クロスファンクショナルチームの編成:部門横断的なQMS活動推進

ステップ3:プロセスの定義と文書化

QMSに必要なプロセスを定義し、文書化します:

  • 設計・開発管理プロセス
  • 製造プロセス管理
  • 供給者管理プロセス
  • 製品管理プロセス
  • リスクマネジメントプロセス
  • 内部監査プロセス
  • 是正・予防措置(CAPA)プロセス
  • 文書・記録管理プロセス
  • 教育訓練プロセス

ステップ4:教育と訓練

QMSの効果的な運用には全従業員の理解と協力が不可欠です:

  • QMSの基本概念と重要性に関する全社教育
  • QMS業務運用に必要な力量(知識、経験、資格等)の明確化
  • 各部門・職位の力量の程度に応じた専門的なQMS教育
  • 担当業務の定期的な理解度確認とリフレッシュ研修

ステップ5:QMSの導入と評価

定義されたプロセスを実際に運用し、その効果を定期的に評価します:

  • パイロット導入:特定の部門や製品ラインでの試験的導入
  • 全社展開:パイロット結果を踏まえた全社的展開
  • モニタリングと測定:定義された品質指標によるQMS効果測定
  • 内部監査の実施:QMSの適合性と有効性の確認
  • マネジメントレビュー:経営陣によるQMS評価と改善方針の決定
  • 改善の実施:有効性維持のための改善活動

QMS省令対応のための実践的アプローチ

QMS省令に効果的に対応するためには、リスクベースアプローチと製品実現プロセスの適切な設計、そして効果的な不適合管理が不可欠です。中でも製品実現プロセスはQMS省令の第5節(第26条〜第53条)で広範囲に規定されており、医療機器の品質と安全性を直接左右する中心的要素であるため、以下に詳細に解説します。

リスクアプローチの適用

医療機器QMSの中核となる考え方は「リスクアプローチ」です。QMS省令第5条の2第2号では、「製品に係る医療機器等の機能、性能及び安全性に係るリスク並びに当該リスクに応じた管理の程度」を明確にすることが求められています。基本的には、定義したプロセスから逸脱があった場合の医療機器等の機能、性能及び安全性への影響をもとに管理水準を定めます。

実践的なリスクアプローチの適用方法として:

  1. 製品リスク分類に基づく管理レベルの設定
    • クラスⅠ〜Ⅳの医療機器分類に応じた管理レベルの差別化
    • 高リスク製品に対するより厳格な検証・バリデーション
  2. プロセスリスク評価
    • 各製造工程の製品品質への影響度評価
    • 重要工程の特定と重点的管理
  3. 変更管理におけるリスク評価
    • 設計・製造変更の影響度評価
    • リスクに応じた検証範囲の決定
  4. 供給者管理のリスクベース実施
    • 部材の重要度に応じた供給者評価・管理の深さ調整
    • クリティカル部材提供者への重点監査

製品実現プロセスの設計

製品実現プロセスは、QMS省令第5節(第26条〜第53条)に詳細に規定されています。効果的な製品実現プロセスの構築ポイントは以下の通りです:

設計開発管理

  • 設計開発計画の策定(適用する設計開発の段階と設計レビュー計画、検証・バリデーション計画)
  • 設計インプット(機能・性能要件、法規制要件、リスクマネジメント情報、ユーザビリティ評価結果)
  • 設計アウトプット(製品仕様、製造指示書・図面、検査基準、取扱説明書等)
  • その他、設計レビュー、検証、バリデーション、設計移管、変更管理、設計履歴ファイルなど

製造工程管理

  • 製造工程の計画と文書化
  • 製造設備の適格性確認(DQ、IQ、OQ、PQ)
  • 工程パラメータの監視
  • 製造バリデーション

不適合管理とCAPAシステム

QMS省令第60条〜第64条に規定されている不適合管理と是正・予防措置(CAPA)は、問題の再発防止と継続的改善の要となるプロセスです。

効果的なCAPAシステムのポイント:

  • 必要十分な不適合の影響範囲の特定と原因調査
  • 適切な根本原因分析ツールの使用
  • CAPAの優先順位づけと期限管理
  • 組織横断的なCAPAレビュー
  • CAPAの水平展開

成功事例と失敗事例に学ぶQMSの実践

QMSの導入と運用において、他社の経験から学ぶことは非常に有益です。ここでは、実際の成功事例と失敗事例を比較し、その要因を分析します。

医療機器業界における成功事例

中堅の血糖測定器メーカー(従業員約300名、年間売上80億円)は、体系的なQMS導入によって大きな成果を挙げました。彼らの成功の核心は、全社的な取り組みとデータに基づく意思決定にありました。

同社は次のようなアプローチでQMSを導入しました:

  1. トップマネジメントの強いコミットメント - 経営層が率先してQMSの重要性を訴え、必要なリソースを確保しました。
  2. リスクアプローチの徹底導入 - 製品とプロセスのリスクを体系的に評価し、重要度に応じた管理を実施しました。
  3. プロセスアプローチの採用と責任者の明確化 - 各プロセスの相互関係を明確にし、責任者を任命することで説明責任を強化しました。
  4. データ駆動型の意思決定 - 客観的なデータに基づいて意思決定を行い、感覚的な判断を排除しました。

さらに、サプライヤー管理の強化、体系的な教育訓練、効果的なCAPAシステムの運用、そして文書管理システムの刷新も実施しました。

これらの取り組みの結果、QMS維持管理が効率的になりリソースが20%削減、製品品質が向上し不良品率が前年比40%減少しました。また、顧客クレームは30%減少し、製造リードタイムが20%短縮されるなど、業務効率も大幅に改善しました。さらにQMS適合性調査でゼロ指摘を達成したことで、欧州と東南アジア市場への展開が加速し、海外売上が倍増するという成果を上げています。

医療機器業界における失敗事例

一方、ある新興のウェアラブル心拍モニターメーカー(従業員約100名)は、QMS導入に失敗し、深刻な結果を招きました。彼らの失敗は、QMSを単なる形式的な手続きと捉え、品質管理の本質を理解していなかったことに起因します。

主な失敗要因は以下の通りです:

  1. トップマネジメントの無関心 - 経営層がQMSを「規制対応のための必要悪」と考え、積極的な関与がありませんでした。
  2. リスク管理の不足 - 製品リスクの体系的な評価が行われず、潜在的な問題が見過ごされました。
  3. プロセスの標準化不足 - 個々のプロセスは定義されていましたが、前後の関連プロセスとの連携が考慮されていませんでした。

データ管理の不備、サプライヤー管理の甘さ、従業員教育の不足、関係者への情報共有不足なども重大な問題でした。特に変更管理の不備と文書管理の混乱は、製品の一貫性を損なう直接的な原因となりました。

これらの問題により、心拍数の誤測定が発生し、数千台のリコールを余儀なくされました。さらにPMDAから適合証明書が発行されず生産停止を命じられるという事態に発展。リコールと生産停止により年間売上が40%減少し、メディアでの報道により企業イメージも大きく損なわれる結果となりました。

QMS効果的運用のための課題と対応

QMSを構築しただけでは不十分です。その効果を継続的に維持・向上させるためには、適切なモニタリングと評価(監視測定)、そして日常的に直面する課題への対応が必要です。

一般的に、不適合が発生した後の是正措置は、あらかじめ検討した手順の構築と運用に比べ、3倍以上のリソースと時間を要するといわれています。

モニタリングと評価方法

効果的なQMSの運用には、システムのパフォーマンスを定期的に測定し評価することが欠かせません。以下の4つの視点からモニタリングを行うことで、QMSの健全性を総合的に評価できます。

  1. パフォーマンス指標(KPI)の設定と追跡 定量的な指標を設定することで、QMSの効果を客観的に評価できます。製品品質指標(不良品率、顧客クレーム数など)だけでなく、プロセス性能指標(製造サイクルタイム、歩留まりなど)やシステム有効性指標(内部監査での指摘事項数、CAPAの有効性など)も重要です。これらの指標を定期的に測定し、トレンドを分析することで改善の機会を特定できます。
  2. 内部監査プログラム 計画的な内部監査は、QMSの客観的な評価手段として極めて有効です。特にプロセスベースの監査アプローチを採用し、プロセスの相互関係や有効性に焦点を当てることで、形式的なチェックにとどまらない実質的な改善につながります。監査結果は体系的に分析し、組織的な改善の機会として活用することが重要です。
  3. マネジメントレビュー 経営層による定期的なQMS評価は、システム全体の方向性を確認する重要な機会です。ここでは、QMSの有効性を包括的に評価し、必要な改善のための資源配分を決定します。単なる報告会ではなく、戦略的な意思決定の場として活用することがポイントです。
  4. その他の評価方法 顧客要求達成度の分析、プロセス分析と最適化、リスク評価の定期的な見直しなども重要な評価手段です。また、サプライヤー評価、教育訓練効果の評価、CAPA有効性の評価など、多角的な視点からQMSを評価することで、盲点を減らし総合的な改善につなげることができます。

よくある課題とその対応方法

QMSの運用には多くの企業が共通して直面する課題があります。以下に主な課題とその対応方法を示します。

  1. 文書管理の負担 QMSにおける文書管理は多くの企業にとって大きな負担となっています。この負担を軽減するためには、電子文書管理システムの導入が効果的です。また、文書体系を最適化し、真に必要な文書に焦点を当てることで、管理の簡素化が可能になります。文書の目的と価値を常に意識し、不必要な複雑さを排除することが重要です。
  2. 形式主義への陥り QMSが単なる形式的な手続きに陥らないよう、プロセスアプローチを強化し、品質目標と事業目標の連携を図ることが重要です。CAPAの進捗管理を徹底し、実質的な改善に結びつけることで、「やらされ感」を払拭し、QMSの本来の価値を引き出すことができます。
  3. リソースの制約 限られたリソースでQMSを効果的に運用するには、リスクアプローチによるリソースの最適配分が不可欠です。また、自動化ツールの導入による効率化も検討すべきでしょう。重要度と緊急度のマトリックスを用いて優先順位付けを行い、限られたリソースを最大限に活用する戦略が求められます。

その他、従業員の理解と関与の不足、変更管理の困難さ、サプライヤー管理の複雑さ、不適合の再発などの課題に対しても、体系的かつ具体的な対応策を講じることが、QMSの効果的な運用には欠かせません。

ISO 13485認証取得のためのステップ

グローバル市場での競争力強化や信頼性向上のために、ISO 13485認証取得は重要な戦略となります。認証取得は一朝一夕にできるものではなく、計画的なアプローチが必要です。

認証取得の準備と計画立案

認証取得の成功は、入念な準備と計画にかかっています。まず、認証取得の目的を明確化することから始めましょう。単なる「認証書」の獲得が目的ではなく、QMSの実質的な改善や市場競争力の強化など、組織にとっての真の価値を定義することが重要です。

次に、経営層のコミットメントを確保します。認証取得には相応のリソースと組織的な取り組みが必要であり、経営層の理解と支援なしには成功しません。

計画立案では以下のステップを踏みます:

  1. プロジェクトチームの編成 - 各部門の代表者を含む横断的なチームを構成
  2. 認証機関の選定 - 業界経験や評判を考慮して適切な認証機関を選ぶ
  3. スケジュールと必要リソースの計画 - 現実的な取得スケジュールと必要リソースの特定

ギャップ分析の実施方法

現状のQMSとISO 13485要求事項とのギャップを明確にすることは、効率的な認証取得の基盤となります。このプロセスは、単なるチェックリストの確認ではなく、体系的な分析が必要です。

ギャップ分析は次のステップで進めます:

  1. チェックリストの準備 - ISO 13485の要求事項に基づく詳細なチェックリスト作成
  2. 文書レビュー - 既存のQMS文書とISO要求事項の比較分析
  3. インタビューと現場観察 - 実際の運用状況の確認と評価
  4. ギャップ報告書の作成 - 発見事項の文書化と分析
  5. 優先順位づけと対応計画策定 - 重要度と取り組みやすさを考慮した改善計画の策定

分析結果はプロジェクトチームで共有し、全体の現状把握に役立てましょう。

内部監査の実施と是正処置

内部監査は認証審査の予行演習であると同時に、QMSの有効性を確認する重要なプロセスです。形式的なチェックに終わらせず、実質的な改善につながる内部監査を実施することが重要です。

効果的な内部監査のためには、まず適切な内部監査員の養成が必要です。外部研修の活用や認証機関によるトレーニングを検討しましょう。次に、全プロセスをカバーする監査計画を策定し、具体的なチェックリストを準備します。

監査実施後は、発見された不適合に対する是正処置を迅速に実施し、その有効性を評価することが重要です。この一連のプロセスを通じて、認証審査に向けたQMSの完成度を高めていきます。

認証審査プロセスの流れ

ISO 13485認証取得のための審査プロセスは複数の段階で構成されています。まず申請・契約段階では、認証機関との契約を締結し、審査範囲や日程を決定します。次に文書審査(第一段階審査)で、QMSの基本文書が要求事項を満たしているか確認されます。

実地審査(第二段階審査)では、実際の現場確認と面談が行われ、QMSが効果的に運用されているかが評価されます。審査で指摘された事項に対しては、適切な是正処置を実施し、認証機関の評価を受けます。

全ての要求事項が満たされていると判断されれば、認証書が発行されます。認証取得後は、年1回のサーベイランス審査と3年ごとの更新審査により、QMSの継続的な適合性が確認されます。

QMS適合性調査とISO認証

日本の医療機器メーカーにとって、QMS適合性調査は避けて通れない重要なプロセスです。ISO 13485認証とは異なる視点と要求事項があるため、その違いを理解し、適切に対応することが求められます。 

QMS適合性調査とISO認証審査の違い

適合性調査とISO認証審査は目的や性質が異なります。下表にその主な違いをまとめました。

項目

適合性調査

ISO認証審査

目的

QMS省令への適合性確認

ISO 13485規格への適合性確認

調査組織

PMDAもしくは登録第三者認証機関

第三者認証機関

法的位置づけ

薬機法に基づく法的義務

任意の認証制度

頻度

5年ごと(定期)+随時

年1回+3年ごと更新

対象範囲

製品群ごと

組織の活動範囲全体

結果の影響

行政処分の可能性

認証の一時停止・取消の可能性

 QMS適合性調査対応のためのチェックリスト

適合性調査を成功させるためには、調査の各段階で適切な対応を行うことが重要です。以下に調査前、調査中、調査後の重要なチェックポイントを示します。

調査前の準備

調査前の準備が調査結果を大きく左右します。まず前回調査での指摘事項と是正状況を確認し、同様の問題が再発していないことを確認します。また、主要文書・記録を整理し、スムーズに提示できるよう準備しておきましょう。

対応チームの編成と役割分担も重要です。各担当者が自分の責任範囲を明確に理解し、必要な知識を身につけておくことで、調査当日の混乱を防ぐことができます。調査対応の模擬練習も効果的です。

調査中の対応

調査中は、調査官の質問に的確に回答することが重要です。不明点がある場合は推測で回答せず、確認してから回答するようにしましょう。また、指摘事項があった場合は、その内容を正確に理解し、反論すべき点と受け入れるべき点を冷静に判断することが重要です。

調査後の対応

調査後は、指摘事項に対する是正計画を迅速に立案し実施します。表面的な対応ではなく、根本原因の分析に基づいた実効性のある是正措置を講じることが重要です。また、類似の問題が他の製品や工程で発生していないか確認し、水平展開による予防処置も実施しましょう。

まとめと今後の展望

医療機器のQMSは、単なる規制要件への対応ではなく、製品の品質と安全性を確保するための重要な経営基盤です。最後に、QMSの重要ポイントを再確認し、成功のための最終アドバイスを提示します。

医療機器QMSの重要ポイント再確認

医療機器QMSを成功させるためには、以下の7つのポイントが特に重要です。

  1. 患者安全を最優先とする姿勢 QMSの最終目的は患者安全の確保であることを常に意識することが重要です。製品の品質向上は患者の生命と健康を守るために不可欠であるという認識を、組織全体で共有することが基本です。
  2. リスクに応じた管理レベルの設定 限られたリソースを効果的に活用するため、リスクの大きさに応じて管理レベルを設定することが重要です。すべてを同じレベルで管理するのではなく、影響の大きいプロセスや部品に重点的にリソースを投入する戦略的アプローチが求められます。
  3. 経営層のコミットメントと関与 QMSの成功には経営層の積極的な関与が不可欠です。形式的な承認だけでなく、経営層自身がQMSの重要性を理解し、必要なリソースを確保するとともに、率先して品質文化を醸成する姿勢が求められます。
  4. 説明責任 QMSの要求事項を達成するために、どのようなプロセス、手順、記録を残すかは企業が検討し、定めるものになります。したがって、品質マニュアル以下の文書体系で示された内容の是非説明責任は企業にあります。他社に倣った、是正措置事例集に倣ったというのは理由として適切ではありません。

他にも製品ライフサイクル全体の管理、実証主義(客観的証拠の重視)、継続的な有効性の維持が重要なポイントとなります。これらを総合的に実践することで、強固なQMSの基盤を築くことができます。

QMS導入・維持での成功のための最終アドバイス

最後に、QMS導入と維持における成功のためのアドバイスを以下にまとめます。

  1. 「完璧を目指すよりも継続的な有効性維持を」 QMSは一度完成すれば終わりというものではありません。環境変化・要求事項の変化に応じて継続的に改善し、有効性を維持することが重要です。完璧な文書よりも、実効性のあるシステムを目指しましょう。
  2. 「現場の実態に合ったシステム設計を」 理想的なシステムが必ずしも現場に適合するとは限りません。現場の実態と能力を考慮し、実行可能で持続可能なシステムを設計することが重要です。現場との対話を通じて、理想と現実のバランスを取りましょう。
  3. 「教育と理解の深化に投資を」 QMSは人によって運用されるものです。関係者全員がその目的と要件を理解し、自分の役割を認識することが成功の鍵となります。教育訓練は形式的なものではなく、実質的な理解を深めるものであるべきです。

「リソースと期待のバランスを」「規制対応から価値創造へ」「先を見据えた柔軟なシステム設計を」など、その他のアドバイスも考慮しながら、組織に適したQMSを構築・維持することが重要です。

医療機器のQMS構築と維持は容易ではありませんが、患者の安全と製品の品質を確保するための不可欠な取り組みです。QMSを単なる規制要件の遵守ツールではなく、組織の品質文化を形成し、患者の生活の質を向上させるための戦略的な基盤として位置づけることで、真の価値を生み出すことができるでしょう。

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