薬機法は私たちの健康と安全を守る重要な法律です。医薬品や医療機器、化粧品など、日常生活で接する多くの製品がこの法律によって規制されています。本記事では、薬機法の基本概念から2025年の最新改正内容まで、知っておくべき重要ポイントを網羅的に解説します。
薬機法とは?基本概念をわかりやすく解説
薬機法の正式名称と目的
薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」です。この法律は、医薬品、医療機器、化粧品などの品質、有効性、安全性を確保することで、国民の健康と生命を守ることを目的としています。
薬機法が規制する主な目的は以下の3つです:
- 品質の確保 - 製造から流通まで一貫した品質管理を実現
- 有効性の確保 - 効果のない製品が市場に出回ることを防止
- 安全性の確保 - 健康被害のリスクを最小限に抑制
この法律により、私たちが使用する医薬品や化粧品が安全で効果的なものであることが保証されています。
薬事法から薬機法への変更経緯
もともと「薬事法」という名称で1960年に制定されたこの法律は、2014年11月25日に大幅な改正が行われ、現在の「薬機法」へと名称が変更されました。
この変更の背景には、医療技術の急速な進歩がありました。特に、再生医療等製品の実用化が進む中で、従来の薬事法では対応しきれない新たな製品カテゴリーが登場したことが大きな要因です。名称変更により、医薬品だけでなく医療機器等も含む包括的な法律であることが明確になりました。
主な変更点として、再生医療等製品という新たなカテゴリーの創設、医療機器の特性を踏まえた規制の構築、安全対策の強化などが挙げられます。これにより、最新の医療技術に対応できる法的枠組みが整備されました。
薬機法の規制対象となる5つの分野
薬機法は、以下の5つの分野を規制対象としています。それぞれの分野で異なる規制基準が設けられており、製品の特性に応じた適切な管理が行われています。
医薬品・医薬部外品の規制内容
医薬品は、病気の診断、治療、予防を目的とした製品で、最も厳格な規制を受けます。処方箋医薬品と一般用医薬品(市販薬)に大別され、それぞれ異なる販売規制が適用されます。
医薬品の主な規制内容:
- 製造販売業の許可が必要
- 臨床試験による有効性・安全性の証明が必須
- 副作用報告の義務化
- 添付文書による情報提供の義務
医薬部外品は、医薬品に準ずる製品で、作用が緩和なものを指します。薬用化粧品、薬用歯磨き、制汗スプレーなどがこれに該当します。
医薬部外品の特徴:
- 医薬品より規制は緩いが、一定の効能効果を標榜可能
- 製造販売業の許可が必要
- 成分の配合量に制限がある
化粧品・医療機器の規制範囲
化粧品は、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために使用される製品です。
化粧品の規制ポイント:
- 56項目の効能効果の範囲内でのみ標榜可能
- 全成分表示の義務化
- 製造販売業の許可が必要
- 医薬品的な効能効果の標榜は禁止
医療機器は、疾病の診断、治療、予防に使用される機械器具、プログラム等を指し、リスクに応じてクラスI〜IVに分類されます。
医療機器の分類と規制:
- クラスI(一般医療機器):届出のみ
- クラスII(管理医療機器):認証が必要
- クラスIII・IV(高度管理医療機器):承認が必要
再生医療等製品の特殊規制
再生医療等製品は、2014年の法改正で新設されたカテゴリーで、細胞や遺伝子を用いた最先端の医療製品を対象としています。
再生医療等製品の特徴:
- 条件付き早期承認制度の適用
- 市販後の安全対策を重視
- 製造管理・品質管理の特殊基準
- トレーサビリティの確保
この分野は今後の医療の発展において重要な役割を果たすことが期待されており、適切な規制により安全性を確保しながら、イノベーションを促進する仕組みが構築されています。
薬機法の3つの主要規制ルール
製造・販売に関する許可制度
薬機法では、医薬品等の製造や販売を行うためには、事前に許可を取得する必要があります。この許可制度により、適切な設備と管理体制を持つ事業者のみが市場に参入できる仕組みとなっています。
製造販売業許可の要件:
- 総括製造販売責任者の設置
- 品質管理(GQP)体制の構築
- 安全管理(GVP)体制の構築
- 適切な事務所の確保
製造業許可の要件:
- 製造管理者の設置
- GMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)の遵守
- 適切な製造設備の確保
- 定期的な査察への対応
これらの許可は5年ごとの更新が必要で、継続的な品質管理が求められます。
販売業許可の要件:
- 管理者の設置
- 薬機法で定める販売業者の遵守事項の遵守
- 適切な製造設備の確保
- 6年ごとの許可更新
広告規制の3要件と禁止事項
薬機法における広告規制は、消費者保護の観点から非常に重要な位置を占めています。広告が薬機法上の規制対象となるためには、以下の3要件すべてを満たす必要があります。
広告の3要件:
- 顧客を誘引する意図が明確であること
- 特定の商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
主な禁止事項:
- 虚偽・誇大広告の禁止
- 承認前の医薬品等の広告禁止
- 医薬品的な効能効果の標榜(化粧品・健康食品)
- 医師等の推薦表現の制限
- 最大級表現の使用制限
特に注意すべきは、この規制が「何人も」を対象としている点です。企業だけでなく、個人のブログやSNSでの発信も規制対象となります。
安全対策と副作用報告制度
医薬品等の安全性確保は薬機法の最重要課題の一つです。市販後の安全対策として、副作用報告制度が整備されています。
副作用報告の義務:
- 製造販売業者:重篤な副作用は15日以内、その他は30日以内に報告
- 医療機関:重篤な副作用の報告義務
- 薬局・販売業者:副作用情報の収集・報告への協力
RMP(医薬品リスク管理計画): 新薬承認時には、予想される副作用リスクとその対策をまとめたRMPの策定が義務付けられています。これにより、市販後も継続的なリスク管理が行われます。
薬機法違反時の罰則・処分内容
2021年導入の課徴金制度
2021年8月1日から導入された課徴金制度は、薬機法違反に対する抑止力を大幅に強化しました。この制度により、虚偽・誇大広告を行った事業者に対して、経済的制裁を科すことが可能になりました。
課徴金の算定方法:
- 対象:虚偽・誇大広告による販売
- 金額:違反期間中の対象商品売上額の4.5%
- 除外規定:売上額が5,000万円未満の場合
- 減額規定:自主申告により50%減額
この制度の導入により、「違反しても売上が上がれば良い」という考え方に対して、強力な抑止効果が期待されています。
刑事罰と行政処分の種類
薬機法違反に対しては、課徴金以外にも様々な処分が科される可能性があります。
刑事罰:
- 無許可製造・販売:3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
- 虚偽・誇大広告:2年以下の懲役又は200万円以下の罰金
- 承認前広告:2年以下の懲役又は200万円以下の罰金
行政処分:
- 措置命令(違反行為の中止・排除)
- 業務改善命令
- 業務停止命令
- 許可の取消し
法人に対しては両罰規定が適用され、違反行為者だけでなく法人にも罰金が科されます。
実際の違反事例と処分内容
近年の主な違反事例を見ると、広告違反が多くを占めています。
事例1:健康食品の医薬品的効能効果標榜
- 違反内容:「がんが消える」などの表現を使用
- 処分:措置命令、課徴金納付命令
事例2:化粧品の効能効果逸脱
- 違反内容:「シワが消える」「若返る」等の表現
- 処分:業務改善命令、広告中止
事例3:未承認医薬品の販売
- 違反内容:海外製の未承認薬をネット販売
- 処分:刑事告発、業務停止命令
これらの事例から、薬機法違反は企業の信頼性を大きく損なうだけでなく、経済的にも大きな打撃となることがわかります。
責任役員の設置
責任役員とは、製造販売業者や製造業者における役員のうち、薬事に関する業務に責任を有する役員(責任役員)として、医薬品医療機器等法上に規定された者です。
これは、法令遵守を重視する統制環境を構築した上で、許可等業者において策定し周知徹底された規範に基づき業務の遂行がなされ、業務の監督を通じて把握した問題点を踏まえた改善措置を行うという法令遵守のためのプロセスを機能させることを求めるものです。
責任役員の責務
責任役員は、以下の責務を負うことが定められています。
- 法令遵守体制を構築する
- 医薬品等に係る申請・届出、製造販売、製造管理・品質管理・製造販売後安全管理及び広告等、薬機法の規制対象となる事項に係る業務並びにその他の薬事に関する法令の規制対象となる事項を遵守する
- 主体的に行動する
- 製造販売業者、製造業者が法令に違反した場合は、その責任を負う
責任役員の範囲
責任役員の範囲は以下のとおりです。
- 株式会社の場合:会社を代表する取締役及び薬事に関する法令に関する業務を担当する取締役。ただし、指名委員会等設置会社にあっては、代表執行役及び薬事に関する法令に関する業務を担当する執行役。
- 持分会社の場合:会社を代表する社員及び薬事に関する法令に関する業務を担当する社員。
- その他の法人の場合:上記に準ずる者
【2025年最新】薬機法改正のポイント
2025年5月14日に改正薬機法が参議院本会議で可決・成立しました。2025年の薬機法改正は、デジタル化の進展と医薬品アクセスの向上を目指した画期的な内容となっています。
コンビニでの市販薬販売解禁
最も注目される改正点は、薬剤師や登録販売者がいないコンビニなどの店舗でも、一定の条件を満たせば市販薬を販売できるようになったことです。
新制度の仕組み:
- パソコンやスマートフォンで服薬の説明を受けるなどすれば、薬局が委託したコンビニで買えるようになる
- スマホアプリを活用し、薬剤師の説明を受けた後にQRコードを取得し、コンビニのレジで薬を購入する仕組みを想定
- 当面は、有資格者が所属する店舗と販売店舗は同一都道府県内にあることが条件
対象となる医薬品:
- 第2類医薬品(風邪薬、解熱鎮痛剤など)
- 第3類医薬品(ビタミン剤など)
乱用対策: 「乱用の恐れのある医薬品」に指定されているせき止めやかぜ薬などについては、若年者への販売を小容量製品1個に制限する。
この改正は公布後2年以内に施行される予定です。
創薬スタートアップ支援強化
創薬スタートアップを支援する基金も新たに設置することが決定しました。
革新的医薬品等実用化支援基金の概要:
- 創薬スタートアップに支援を行う事業者などに機器や施設整備、事業化支援への補助を行うことを想定
- 官民連携による創薬基盤の強化
- 国内での新薬開発環境の整備
この支援により、日本の創薬力強化と医薬品産業の国際競争力向上が期待されています。
調剤業務の外部委託一部解禁
薬局の調剤業務の外部委託を一部可能にすることも今回の改正の重要なポイントです。
外部委託可能な業務:
- 医薬品のピッキング・包装
- 事務作業
- ただし、患者対応や服薬指導は委託対象外
委託の条件:
- 委託先は同一都道府県内の薬局に限定
- 薬剤師の業務負担軽減と専門性の高い業務への集中が目的
また、医療用医薬品の安定供給に向けて製薬会社に供給体制管理責任者の設置を義務付けることや、後発医薬品の安定供給を確保するための基金も設置されることが決まりました。
業界別・薬機法の影響と対策
化粧品・健康食品事業者への影響
化粧品・健康食品業界は、薬機法の広告規制の影響を最も受けやすい業界の一つです。
化粧品事業者が注意すべき点:
- 56項目の効能効果の範囲内での表現
- 「アンチエイジング」「若返り」等の表現は使用不可
- ビフォーアフター写真の使用制限
- 体験談の掲載における注意点
健康食品事業者への影響:
- 医薬品的な効能効果の標榜禁止
- 「治る」「改善」「予防」等の表現は使用不可
- 機能性表示食品制度の活用検討
- エビデンスに基づいた表現の重要性
対策として、社内での広告審査体制の構築、専門家によるリーガルチェック、定期的な社員教育の実施が推奨されます。
広告・マーケティング業界への影響
広告代理店やマーケティング会社も、薬機法違反の責任を問われる可能性があります。
広告業界が留意すべき事項:
- クライアントの商品カテゴリーの正確な把握
- 薬機法に準拠した表現の提案
- インフルエンサーマーケティングにおける注意喚起
- SNS広告における規制遵守
リスク回避のための施策:
- 薬機法専門の審査部門の設置
- 制作スタッフへの定期的な研修
- チェックリストの作成と活用
- 疑義がある場合の専門家相談体制
小売・EC事業者が注意すべき点
2025年の改正により、小売業者にとって新たなビジネスチャンスが生まれる一方、責任も増大します。
コンビニ事業者の対応:
- オンライン服薬指導システムの導入準備
- 医薬品の適切な保管体制の構築
- 従業員への医薬品取扱い教育
- 薬局との連携体制の確立
EC事業者の注意点:
- 医薬品販売における許可の確認
- 商品説明文の薬機法準拠
- レビュー・口コミの管理
- 海外製品の取扱い注意
特にマーケットプレイス型のECサイトでは、出品者の管理体制強化が求められます。
薬機法に違反しないための実践的対策
広告作成時の7つのチェックポイント
薬機法違反を防ぐため、広告作成時には以下の7つのポイントを必ずチェックしましょう。
- 商品カテゴリーの確認
- 医薬品、医薬部外品、化粧品、健康食品のどれに該当するか
- 効能効果の表現チェック
- 各カテゴリーで認められた範囲内の表現か
- 医薬品的な効能効果を標榜していないか
- 最大級表現の有無
- 「最高」「日本一」などの表現を使用していないか
- 使用する場合は客観的根拠があるか
- 保証表現の確認
- 「必ず」「確実に」などの断定的表現がないか
- 効果を保証するような表現を避けているか
- 体験談・ビフォーアフター
- 個人の感想であることを明記しているか
- 効果を保証するような使い方をしていないか
- 医師等の推薦
- 医師・薬剤師等の推薦を暗示していないか
- 白衣を着た人物の画像を使用していないか
- 安全性の強調
- 「副作用がない」などの表現を使用していないか
- 安全性を過度に強調していないか
社内体制整備のポイント
組織的な薬機法対応には、適切な社内体制の構築が不可欠です。
推奨される体制整備:
- 薬機法対応責任者の任命
- 各部門に薬機法の知識を持つ担当者を配置
- 定期的な情報更新と社内共有
- 審査フローの確立
- 広告・販促物の事前審査体制
- 複数人によるダブルチェック体制
- 記録の保存と定期的な見直し
- 教育研修の実施
- 全社員向けの基礎研修(年1回以上)
- 関連部門向けの専門研修
- 最新の法改正情報の共有
- 外部専門家との連携
- 薬機法に詳しい弁護士・薬剤師との顧問契約
- 定期的な監査の実施
- 疑義照会体制の確立
- 違反事例の共有
- 他社の違反事例の分析と共有
- 自社のヒヤリハット事例の蓄積
- 再発防止策の検討と実施
専門家への相談タイミング
以下のような場合は、必ず専門家に相談することをお勧めします。
相談が必要なケース:
- 新商品の発売前
- 新しい広告表現を使用する際
- 法改正があった場合
- 競合他社から指摘を受けた場合
- 行政から照会があった場合
相談先の選び方:
- 薬機法専門の法律事務所
- 薬事コンサルタント
- 業界団体の相談窓口
- 行政の事前相談制度の活用
早期の相談により、大きなトラブルを未然に防ぐことができます。
FAQ(よくある質問)
Q1: 薬機法は個人にも適用されますか?
A: はい。薬機法の広告規制は「何人も」が対象となるため、個人のブログやSNSでも医薬品等の効果効能を謳う表現は規制対象です。アフィリエイトやインフルエンサー活動を行う際は特に注意が必要です。
Q2: 健康食品やサプリメントも薬機法の規制対象ですか?
A: 健康食品自体は薬機法の直接的な規制対象ではありませんが、医薬品的な効果効能を表現した場合は薬機法違反となります。「血圧を下げる」「がんを予防する」などの表現は使用できません。
Q3: 2025年の改正によりコンビニで薬が買えるようになりましたか?
A: 改正法は成立しましたが、コンビニ購入は公布後2年以内に施行予定です。実施時期は2027年頃になる見込みで、薬剤師からオンライン説明を受けることが条件となります。
Q4: 薬機法違反の課徴金はどのように計算されますか?
A: 違反を行っていた期間中の対象商品売上額の4.5%が課徴金として徴収されます。ただし、売上額が5,000万円未満の場合は対象外となり、自主申告により50%減額される制度もあります。
Q5: 化粧品の広告で使える表現に制限はありますか?
A: はい。化粧品は56の効能範囲内での表現のみ可能で、医薬品的な効果効能(シミが消える、病気が治るなど)は禁止されています。「美白」は「メラニンの生成を抑え、シミ・そばかすを防ぐ」という表現に限定されます。
まとめ
薬機法は、私たちの健康と安全を守る重要な法律です。2025年の改正により、市販薬へのアクセスが向上し、創薬イノベーションが促進される一方で、事業者にはより高い責任が求められるようになりました。
特に広告・マーケティング活動においては、常に最新の規制情報を把握し、適切な表現を心がける必要があります。違反した場合の経済的・社会的影響は甚大であり、予防的な対策が何より重要です。
薬機法対応は決して難しいものではありません。基本的なルールを理解し、適切な体制を整備することで、安心して事業活動を行うことができます。不明な点があれば、早めに専門家に相談し、コンプライアンスを確保しながら、消費者に価値を提供していきましょう。
参考資料
- 厚生労働省「医薬品等の広告規制について」
- 厚生労働省「令和4年薬機法等改正について」
- 薬生発0129第5号「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドライン」について
- 日本経済新聞「コンビニで市販薬購入、薬機法改正案を閣議決定」(2025年2月12日)
- 共同通信「市販薬、コンビニで購入可能に 改正法成立」(2025年5月14日)