更新日: 2025年04月08日
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【専門家監修】QMSとGVPの違いとは?品質マネジメントと安全管理の連携ポイント

QMSとGVPの違いとは?品質マネジメントと安全管理の連携ポイント

この記事の監修者

居原 範道

医療機器QMSコンサルタント

居原 範道

はじめに:QMSとGVPを理解する重要性

医療機器業界において、製品の品質と安全性を確保するための二大規制の柱がQMS(品質マネジメントシステム)とGVP(製造販売後安全管理基準)です。これらは医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく規制要件であり、医療機器メーカーが遵守すべき重要な基準となっています。

両者は相互に補完する関係にありながらも、目的や対象範囲、実施時期などに明確な違いがあります。しかし、実務の現場では「QMSとGVPの違いやその連携方法が分かりにくい」という声をよく耳にします。医療機器の安全性と有効性を最大化するためには、両者の違いを理解した上で、効果的に連携させることが極めて重要です。

本記事では、QMSとGVPの基本的な違いを解説するとともに、両者を効果的に連携させるためのポイントを実践的な視点から詳述します。製造時の品質管理と市販後の安全管理を適切に連携させることで、医療機器の製品ライフサイクル全体を通じた「安全・安心・信頼」の確保を目指しましょう。

QMSとGVPの規制背景と法的要件

法的位置づけと基本概念

QMSとGVPはともに医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく省令ですが、その位置づけは異なります。

QMS(品質マネジメントシステム)

  • 法的根拠:薬機法第23条の2の5第2項第4号等
  • 具体的規制:医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(厚生労働省令第169号、通称「QMS省令」)
  • 国際規格との関係:ISO 13485(医療機器-品質マネジメントシステム-規制目的のための要求事項)と整合

GVP(製造販売後安全管理基準)

  • 法的根拠:薬機法第23条の2の15第2項
  • 具体的規制:医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令(厚生労働省令第135号、通称「GVP省令」)
  • 国際規格との関係:ISO 14155(臨床試験)や諸外国の市販後監視規制と部分的に整合

基本的な目的の違い

QMSの目的: 医療機器の設計・開発から製造、出荷に至るまでの製品品質を確保するためのシステム的アプローチを定めています。製品が設計通りに一貫して製造され、品質要求事項を満たすことに重点を置いています。

GVPの目的: 市販後の医療機器の使用に伴う安全性情報を収集・評価し、適切な安全確保措置を講じるための体制と活動を規定しています。市販後の実際の使用環境における安全性の継続的監視と必要に応じた対応に重点を置いています。

対象範囲の違い

項目

QMS

GVP

対象となる活動

設計・開発、製造、保管、流通、据付け、サービス提供等の製品を対象とした活動

安全性情報の収集、評価、安全確保措置の実施等の使用者への安全性を対象とした活動

製品ライフサイクル

主に市販前(ただし、市販後の品製品質にかかわる苦情、変更管理やCAPAも含む)

主に市販後

対象組織

製造販売業者、製造業者、設計開発を行う組織等

製造販売業者

責任者

管理監督者、管理責任者、国内品質業務運営責任者等

総括製造販売責任者、安全管理責任者、安全管理実施責任者

例えば、顧客からの苦情や不具合情報は、製品品質に関する情報と使用した患者の安全性に関する情報の2つが含まれています。

製品品質に関する情報には、不適合製品に関する情報、使用性に関する情報、製品仕様に関する情報等が含まれます。これらの情報を収集、分析、対応するのはQMSの活動となります。

患者の安全性には、施術遅延、健康状態の悪化、副作用等の情報が含まれます。これらの情報を収集、分析、安全性確保を行うのがGVPの活動となります。

製品の品質に問題がなくても、患者の安全性に影響が出る場合がありますので、QMSの活動とGVPの活動は明確に対象範囲が違うことを理解しましょう。

QMSとGVPの基本的な違い

管理体制と責任者の違い

QMSにおける主要な責任者

  • 管理監督者:QMSの確立・実施・維持に対するコミットメントの証拠を示す最上位のマネジメント
  • 管理責任者:QMSの実施・維持の責任者(役員クラスが一般的)
  • 国内品質業務運営責任者:国内の品質管理業務を統括し、市場への出荷の決定などを行う責任者(QMS省令第72条)

GVPにおける主要な責任者

  • 総括製造販売責任者:製造販売業の全般的な業務の統括責任者
  • 安全管理責任者:製造販売後安全管理業務を統括する責任者(GVP省令第4条)
  • 安全管理実施責任者:安全管理責任者の指示の下、安全管理業務を行う者(GVP省令第6条)

QMS体制とGVP体制は相互に情報を共有し連携する必要がありますが、独立性を確保することも重要です。特に安全管理部門は、品質部門からの独立性を保ちながら、客観的な安全性評価を行う必要があります。

プロセスアプローチの違い

QMSのプロセスアプローチ

  • 製品実現プロセス(設計・開発、製造、検証など)を中心とした体系的アプローチ
  • PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルに基づく継続的改善
  • リスクアプローチによる品質管理
  • 製品ライフサイクル全体を考慮した品質マネジメント

GVPのプロセスアプローチ

  • 安全性情報の収集・評価・安全確保措置の実施という流れに沿ったアプローチ
  • シグナル検出と評価のプロセス
  • ベネフィット・リスクバランスの継続的な評価
  • 医療現場との密接な連携による情報収集

プロセス構造と文書体系の違い

QMSの文書体系

  1. 品質マニュアル(QMSの全体像を記述)
  2. 品質方針と品質目標
  3. 製品標準書(製品仕様や製造方法を記述)
  4. 手順書、実施要領書(各プロセスの実施方法を詳述)
  5. 記録(活動の証拠)

GVPの文書体系

  1. 安全管理業務手順書
  2. 安全管理実施計画
  3. 安全性定期報告書
  4. 不具合・副作用症例報告書
  5. 安全確保措置に関する記録 

QMSとGVPの連携ポイント

情報共有の重要性

QMSとGVPは別々の省令に基づく管理システムですが、医療機器の安全性と有効性を確保するために密接に連携する必要があります。特に以下の情報は両システム間で共有すべき重要事項です:

  • 市販前の製品リスク評価情報
  • 製造工程、製品仕様の変更情報
  • 製品クレーム・不具合情報
  • 市販後に収集された安全性情報
  • 改善活動(CAPA)の状況と結果

情報共有を適切に行うことで、市販前の品質管理と市販後の安全管理の連続性が確保され、製品ライフサイクル全体を通じた一貫した安全管理が可能となります。

フィードバックループの構築

QMSとGVPの効果的な連携において最も重要なのは、フィードバックループの構築です。市販後に収集された安全性情報や不具合情報を、製品の設計・開発や製造プロセスの改善に活かす仕組みです。

QMSからGVPへの主なフィードバック

  • 不適合製品情報とその原因分析結果及び修正内容
  • 市販後の苦情内容とその傾向
  • 製品に関連するCAPA実施内容
  • 変更管理情報

GVPからQMSへの主なフィードバック

  • 市販後の不具合傾向と使用環境要因
  • 特定の製造ロットに関連する不具合パターン
  • 医療現場からの使用性に関するフィードバック
  • 長期使用に関する安全性・耐久性情報

QMS省令第55条やJIS Q 13485:2018の8.2.1「フィードバック」の項目にあるように、このフィードバックは品質システムの有効性評価の重要な要素となります。

リスクマネジメントにおける連携

医療機器のリスクマネジメント(ISO 14971に基づく)は、QMSとGVPを繋ぐ重要な要素です。

市販前リスクマネジメント(QMSの範疇)

  • ハザードの特定と初期リスク評価
  • リスクコントロール手段の実装
  • 残留リスクの評価と受容判断

市販後リスクマネジメント(GVPの範疇)

  • 実使用下でのリスク情報の収集
  • 新たに判明したハザードの評価
  • 残留リスクの再評価

これらのプロセスを連携させることで、製品のリスクプロファイルを継続的に更新し、必要に応じて設計変更や添付文書改訂などの安全確保措置を実施することができます。 

QMSとGVPの連携のための実践的アプローチ

組織体制の整備

効果的な連携のためには、適切な組織体制の整備が不可欠です:

  • QMS-GVP連携会議の定期開催(月次や四半期ごと)
  • 品質部門と安全管理部門の定期的な情報交換の場の設定
  • クロスファンクショナルチームの結成(特に重大な不具合対応時)
  • 総括製造販売責任者、安全管理責任者、国内品質業務運営責任者の定期的な合同レビュー

情報共有システムの構築

効率的な情報共有のためのシステム構築も重要です:

  • 共通データベースの構築(不具合情報、CAPA情報等)
  • 標準化された報告フォーマットの開発
  • QMSとGVPの文書管理システム、教育訓練システム、内部監査(自己点検)システムの連携
  • 定期的なレポーティングルールの確立

具体的な連携プロセスと文書

QMSとGVPの連携を確実にするための具体的なプロセスと文書例:

プロセス例

  1. 市販後安全性情報のQMSへのフィードバック手順
  2. 製造変更情報のGVPへの通知手順
  3. 苦情・不具合情報の共同評価プロセス
  4. CAPA(是正・予防措置)の連携レビュー手順

文書例

  1. QMS-GVP連携手順書(品質マニュアルと安全管理業務手順書の一体化)
  2. 安全性情報フィードバック記録
  3. 合同レビュー議事録
  4. 製品リスク情報共有フォーム

連携チェックリスト

QMSとGVPの連携状況を自己評価するためのチェックリスト:

  • □ 安全管理責任者と国内品質業務運営責任者の定期的な会合が実施されている
  • □ 市販後に収集された安全性情報が設計・開発部門にフィードバックされている
  • □ 製造プロセスの変更情報が安全管理部門に共有されている
  • □ 不具合傾向分析が品質部門と安全管理部門の共同で実施されている
  • □ CAPAの有効性評価に市販後安全性情報が活用されている
  • □ 添付文書改訂の際に設計・開発部門の意見が反映される仕組みがある
  • □ リスクマネジメントファイルが定期的に更新され、市販後情報が反映されている
  • □ 安全性情報について経営層への共同報告の仕組みがある

QMSとGVPの連携における課題と解決策

よくある課題

QMSとGVPの連携において、多くの企業が直面する課題には以下のようなものがあります:

  • 部門間の「サイロ化」:品質部門と安全管理部門が独立して活動し、情報共有が不十分
  • 責任の所在の不明確さ:特に境界領域における責任の所在が曖昧
  • タイムラグの発生:情報伝達の遅延による迅速な対応の妨げ
  • リソースの不足:特に中小企業での人員や予算の制約
  • 文書管理システムの不整合:別々のシステムによる情報の分断

効果的な解決策

これらの課題に対する効果的な解決策としては:

  • 明確な手順書の作成:QMSとGVPの連携に特化した手順書を作成し、責任と権限を明確化
  • 統合データベースの構築:苦情や安全管理情報を一元管理できるシステムの導入
  • 定期的な合同トレーニング:品質部門と安全管理部門の合同教育訓練の実施
  • KPI(重要業績評価指標)の設定:連携の有効性を測定するための指標設定と定期的な評価
  • 経営層のコミットメント:経営者が連携の重要性を認識し、必要なリソースを確保

PMDAの指摘事例と対応

PMDAによるQMS調査やGVP調査での連携に関する指摘事例:

事例1:情報伝達の不備

  • 指摘内容:市販後に収集された重要な安全性情報が設計部門に適切に伝達されていなかった
  • 対応策:安全性情報の重要度分類と伝達ルールの明確化、情報伝達の記録管理の強化

事例2:変更管理の不備

  • 指摘内容:製品設計変更が安全管理部門に伝達されず、市販後安全対策に反映されなかった
  • 対応策:変更管理手順への安全管理部門の関与の明確化、変更レビューへの安全管理責任者の参加

事例3:CAPAの連携不足

  • 指摘内容:市販後の不具合に対するCAPAが安全管理活動に反映されていなかった
  • 対応策:CAPAレビューへの安全管理部門の参加、安全性情報に基づくCAPAの有効性評価の実施

事例研究:成功事例に学ぶ

企業A社の事例:組織統合アプローチ

A社(大手医療機器メーカー)では、QMSとGVPの連携を強化するため「製品ライフサイクル管理委員会」を設置した。この委員会には品質部門と安全管理部門の責任者に加え、研究開発、製造、マーケティング部門の責任者も参加し、製品ライフサイクル全体を通じた情報共有と意思決定を行っています。

成功要因

  • 経営層の強力なコミットメント
  • 明確な責任と権限の割り当て
  • 定期的な委員会活動と情報共有の仕組み
  • 部門横断的な教育訓練の実施

企業B社の事例:ITシステム活用アプローチ

B社(中堅医療機器メーカー)では、QMSとGVPの情報を統合管理するITシステムを導入しました。このシステムでは、不具合情報、顧客クレーム、市販後安全性情報、CAPA情報、変更管理情報などを一元管理し、関連部門がリアルタイムで情報を共有できる環境を構築しています。

成功要因

  • 統合データベースによる情報の一元管理
  • 自動アラート機能による重要情報の迅速な共有
  • ワークフロー機能による承認プロセスの効率化
  • データ分析機能による傾向分析と早期警告

企業C社の事例:中小企業での効率的アプローチ

限られたリソースで運営するC社(中小医療機器メーカー)では、「週次安全品質レビュー」という簡潔な仕組みを導入しました。品質部門と安全管理部門の担当者が週に1回30分のミーティングを行い、その週の重要情報を共有し、必要な対応を協議しています。

成功要因

  • 簡潔で継続可能な仕組みの構築
  • 情報共有の定例化による確実な実施
  • 共通の情報共有フォーマットの活用
  • 重要度に応じた対応の優先順位付け 

まとめと今後の展望

QMSとGVPの連携の重要性

QMSとGVPは医療機器の安全性と有効性を確保するための二つの柱であり、それぞれが独立した役割を持ちながらも、密接に連携することで真の価値を発揮します。市販前の品質管理と市販後の安全管理を有機的に連携させることで、製品ライフサイクル全体を通じた「継続的な安全性確保」と「製品・プロセスの継続的改善」が可能となります。

規制動向と今後の方向性

医療機器の規制環境は世界的に「製品ライフサイクル全体を通じた管理」へと進化しています。欧州MDR(医療機器規則)での市販後サーベイランスの強化や、FDAの「Case for Quality」イニシアチブなど、品質と安全性を統合的に考える流れが強まっています。

日本においても、PMDAのGVP/QMS調査における連携の確認強化や、QMS省令と医療機器等法改正による市販後安全管理の強化など、統合的なアプローチが求められる傾向にあります。

実践のためのアドバイス

QMSとGVPの効果的な連携のための実践的アドバイスをまとめます:

  1. トップマネジメントのコミットメントを獲得する
  2. 部門間のコミュニケーションチャネルを明確化する
  3. 連携のための標準作業手順書を整備する
  4. 定期的な合同レビューの仕組みを構築する
  5. 統合的な情報管理システムの導入を検討する
  6. 部門横断的な教育訓練を実施する
  7. 連携の有効性を定期的に評価する
  8. ベストプラクティスを組織内で共有する

医療機器の品質管理と安全管理は、互いに補完し合いながら製品の安全性と有効性を確保する車の両輪です。QMSとGVPの効果的な連携を通じて、患者さんと医療従事者に安全で信頼性の高い医療機器を提供し続けることが、私たち医療機器業界の使命です。