更新日: 2025年03月24日
外部認証

【専門家監修】外部認証取得の全プロセス~医療機器QMSとISO認証成功事例

外部認証取得の全プロセス~医療機器QMSとISO認証成功事例

この記事の監修者

居原 範道

医療機器QMSコンサルタント

居原 範道

医療機器QMSにおける外部認証の意義

医療機器の品質管理において、外部認証の取得は単なる「認証の壁紙」ではなく、製品の品質と安全性を確保するための重要な基盤となります。医療機器のQMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)は、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づくQMS省令(厚生労働省令第169号)への適合が求められるとともに、企業には国際規格であるISO 13485の認証取得も期待されています。

外部認証取得には主に以下のメリットがあります。

  • 法的要件の充足: 医療機器を国内で製造販売するための基本的な要求事項の理解
  • 品質の国際的整合性: グローバル市場展開を見据えた基盤整備
  • 組織的な品質向上: 体系的なQMS構築による効率的で継続的改善の促進
  • 顧客・取引先からの信頼獲得: 第三者による客観的評価としての信頼性
  • リスク低減: 体系的な品質管理による製品不具合リスクの低減

特に近年は、各国規制の調和が進む中、ISO 13485とQMS省令に基づく管理システムを上手く統合することで、国際的に効率的な品質管理体制の構築が可能になっています。

認証取得プロセスの全体像と法的背景

QMS省令とISO 13485の関係

QMS省令と国際規格ISO 13485は、いずれも医療機器の品質管理システムに関する要求事項を定めていますが、以下のような関係性があります。

  • QMS省令は法的拘束力を持つ国内規制要件
  • ISO 13485は国際的に認められた民間規格
  • QMS省令はISO 13485:2003をベースに制定され、現在はISO 13485:2016と整合している
  • 両者の要求事項は基本的に共通するが、QMS省令には一部国内特有の要求事項が追加されている

認証・調査の種類

医療機器QMSに関する主な認証・調査には以下があります。

  1. QMS適合性調査: クラスⅡ以上の医療機器の製造販売には、PMDAまたは登録認証機関によるQMS適合性調査が必須
  2. ISO 13485認証: 民間の認証機関による任意の認証(国際展開には事実上必須)
  3. 外国製造所認定: 海外から医療機器を輸入する場合に必要となる外国製造所に対する認証
  4. 各国規制当局の査察: 米国FDA、欧州MDR対応の査察など

認証取得全体ロードマップ

  1. 計画フェーズ (3〜6ヶ月)
    • 経営層のコミットメント獲得
    • プロジェクトチーム編成
    • ギャップ分析実施
    • 実施計画の策定
  2. 構築フェーズ (6〜12ヶ月)
    • QMS文書体系の構築
    • 手順書・記録様式の整備
    • 組織体制の整備
    • 教育訓練の実施
  3. 運用フェーズ (3〜6ヶ月)
    • 構築したシステムの運用
    • 内部監査の実施
    • マネジメントレビューの実施
    • 是正・予防処置の実施
  4. 審査フェーズ (2〜3ヶ月)
    • 認証機関の選定
    • 予備審査(任意)
    • 文書審査
    • 実地審査
    • 是正対応
    • 認証取得
  5. 維持・改善フェーズ (継続)
    • サーベイランス審査対応
    • 継続的改善の実施
    • システムの最適化

一般的に、計画から認証取得まで12〜18ヶ月程度を要します。ただし、組織規模や既存のQMS成熟度によって期間は変動します。

準備段階の重要ポイント

経営層のコミットメント確保

外部認証取得の成功には、経営層の強力なコミットメントが不可欠です。ISO 13485:2016では、「5.1 経営者のコミットメント」として明確に要求されており、具体的には以下のアクションが重要です。

  • 品質方針・品質目標の策定と周知
  • 必要なリソース(人員、予算、設備等)の確保
  • 定期的なマネジメントレビューの開催
  • 品質を重視する組織文化の醸成

経営層に対しては、認証取得による具体的なビジネスメリット(市場拡大、クレーム削減、効率化など)を定量的に示すことが効果的です。

現状分析(ギャップ分析)の実施

効率的なQMS構築のためには、現状とISO 13485/QMS省令の要求事項とのギャップを正確に把握することが重要です。

ギャップ分析の手順:

  1. 要求事項のチェックリスト作成(ISO 13485:2016の全要求事項とQMS省令の要求事項)
  2. 現状の対応状況の評価(対応済/部分的対応/未対応)
  3. ギャップの特定と優先順位づけ
  4. 対応計画の策定

表1: ギャップ分析表の例

要求事項

現状

ギャップ

対応策

担当者

期限

4.2.4 文書管理

一部の文書管理のみ実施

体系的な文書管理手順なし

文書管理手順書の作成と実装

品質保証部

2023/06

7.3 設計・開発

設計管理実施中だが記録不十分

設計検証・妥当性確認の記録不足

設計管理手順の改訂と記録様式整備

開発部

2023/08

プロジェクト体制の構築

QMS構築・認証取得プロジェクトの成功には、適切な体制構築が必須です。

推奨される体制:

  • 推進責任者: 経営層または経営層直下の管理職(管理責任者を兼務することが多い)
  • プロジェクトマネージャー: QMS全体の構築・運用を管理する実務責任者
  • 部門代表者: 各部門からの代表者で構成するワーキンググループ
  • 外部コンサルタント: 必要に応じて専門知識を補完するために活用(特に初回認証時)

プロジェクト体制では、各メンバーの役割と責任を明確にし、定期的な進捗管理の仕組みを構築することが重要です。 

QMS文書システムの構築

QMS文書階層の設計

QMS文書は一般的に4階層で構成され、ISO 13485およびQMS省令の要求事項を満たす必要があります。

QMS文書階層

  • 第1階層: 品質マニュアル(品質方針、QMSの基本構造を規定)
  • 第2階層: 手順書(プロセスの実施方法を規定)
  • 第3階層: 実施要領書・作業指示書(具体的な作業方法を規定)
  • 第4階層: 記録(活動の証拠となる記録)

QMS省令第6条では「品質管理監督文書」として、品質方針、品質目標、品質管理監督システムの基準、QMS省令が規定する手順と記録等を記載することが求められています。

必須文書の特定と作成ポイント

ISO 13485:2016およびQMS省令では、特定のプロセスについて文書化手順を要求しています。以下は必須文書の一部です。

必須文書化手順:

  1. 文書管理手順 (ISO 13485:2016の4.2.4/QMS省令第8条)
    • 文書の承認、レビュー、更新、識別の方法
    • 最新版の利用確保の方法
    • 外部文書の管理方法
    • 旧版の保管管理と廃棄
  2. 記録管理手順 (ISO 13485:2016の4.2.5/QMS省令第9条)
    • 記録の識別、保管、保護、検索、保管期間、廃棄に関する管理
    • 個人情報の管理
  3. 不適合製品の管理手順 (ISO 13485:2016の8.3/QMS省令第60条)
    • 不適合製品の識別、文書化、隔離、評価の方法
    • 特別採用の基準と手順
  4. 是正措置手順 (ISO 13485:2016の8.5.2/QMS省令第63条)
    • 不適合の再発防止のための措置
    • 是正措置の有効性評価
  5. 予防措置手順 (ISO 13485:2016の8.5.3/QMS省令第64条)
    • 潜在的不適合の特定と予防
    • 予防措置の有効性評価

文書作成のポイント:

  • シンプルで明確な言葉を使用する
  • 実際の業務プロセスと整合させる
  • 企業の組織規模に応じた必要最小限の文書量に抑える
  • 図表や写真を活用して理解しやすくする
  • 定期的なレビューと更新のサイクルを確立する

製品標準書/医療機器ファイルの構築

QMS省令第7条の2では「製品標準書」、ISO 13485では「医療機器ファイル」(4.2.3)の作成・維持が求められています。

製品標準書/医療機器ファイルに含めるべき事項:

  • 医療機器の一般的名称、販売名、意図する用途、表示物
  • 製品の仕様
  • 製造方法、保管方法、取扱方法、流通方法
  • 製品の測定・監視方法
  • 据付要求事項(該当する場合)
  • 附帯サービス要求事項(該当する場合)

システムの実装と運用

プロセスアプローチの実践

ISO 13485:2016ではプロセスアプローチを採用しており、QMS省令でも同様の考え方が取り入れられています。

プロセスアプローチの実装ステップ:

  1. 組織の主要プロセスの特定(製品実現、支援プロセス等)
  2. プロセス間の相互関係の明確化
  3. 各プロセスのインプット/アウトプットの定義
  4. プロセスオーナーの指名と責任の明確化
  5. プロセス評価指標(KPI)の設定
  6. プロセスの監視・測定の仕組み構築

プロセスマップを作成し、組織全体で共有することで、プロセス間の関係性の理解を促進します。

リスクマネジメントの統合

医療機器QMSにおいては、リスクマネジメントの統合が極めて重要です。ISO 13485:2016の7.1およびQMS省令の26条では、製品実現の各段階におけるリスクマネジメントの実施が要求されています。

リスクマネジメント統合のポイント:

  • JIS T 14971(ISO 14971)に準拠したリスクマネジメントプロセスの構築
  • 製品設計・開発におけるリスクアセスメントの実施と記録
  • 製造プロセスにおけるリスク低減策の実装
  • 変更管理プロセスにおけるリスク評価の実施
  • 市販後情報のリスク評価へのフィードバック

内部監査の効果的実施法

内部監査は、QMSの健全性を評価し改善するための重要なツールです。ISO 13485:2016の8.2.4およびQMS省令第56条では、計画的な内部監査の実施が要求されています。

効果的な内部監査の実施ポイント:

  1. 内部監査員の養成
    • 内部監査員の力量確保(ISO 19011ベース)
    • 監査技術と知識の定期的更新
  2. 監査計画の策定
    • リスクアプローチによる監査範囲・頻度の決定
    • プロセスの重要性に応じた監査項目の設定
  3. 監査の実施
    • チェックリストの活用
    • 客観的証拠の収集
    • プロセスアプローチによる監査の実施
  4. 監査結果の報告と改善
    • 不適合の明確な記録
    • 原因分析と是正処置の実施
    • フォローアップ監査による有効性確認

審査対応の実践ポイント

審査機関の選定基準

認証機関/調査機関の選定は、審査の質と効率に大きく影響します。以下の基準で選定を行うことが推奨されます。

選定基準:

  • 認定状況(JAB認定、MDSAP認定等)
  • 医療機器分野の専門性と実績
  • 審査員の経験と専門知識
  • サービス範囲(グローバル対応可能か)
  • サポート体制(日本語対応等)
  • 審査費用と継続費用
  • 他の認証取得企業からの評判

予備審査(プレアセスメント)の活用

本審査前に予備審査を受ける、または社内ドライランを実施することで、QMSの弱点を事前に把握し対策することができます。

予備審査の効果的活用法:

  • 主要なギャップの特定
  • 文書体系の妥当性確認
  • 審査対応のシミュレーション
  • 審査員とのコミュニケーション確立

本審査での対応テクニック

本審査を成功させるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

審査対応のポイント:

  1. 審査準備
    • 審査範囲の明確化と関係者への周知
    • 必要な文書・記録の整理と即時提示できる状態の確保
    • 過去の審査での指摘事項の是正状況確認
  2. 審査中の対応
    • 質問に対する簡潔・正確な回答
    • 証拠に基づく説明(主張でなく記録で示す)
    • 審査員の指摘に対する前向きな受け止め
    • 不明点があれば確認する姿勢
  3. 指摘事項への対応
    • 指摘の本質の理解
    • 短期的対応と長期的対応の区別
    • 根本原因分析に基づく是正措置
    • 水平展開の検討(類似プロセスへの適用)

認証成功事例と共通ポイント

中小医療機器メーカーの認証取得事例

事例1: 診断機器メーカーA社(従業員50名)の場合

A社は体外診断用医療機器を製造する中小企業で、QMS省令適合性調査とISO 13485認証を同時に取得するプロジェクトに取り組みました。

成功のポイント:

  • 社長自らがプロジェクトのスポンサーとなり、全社的な取り組みとして位置づけ
  • 既存の業務プロセスを最大限活用し、過剰な文書化を避けた効率的なQMS構築
  • 外部コンサルタントを限定的に活用(ギャップ分析と主要文書のレビューのみ)
  • 全従業員への段階的な教育プログラムの実施
  • 認証取得を最終目標とせず、真の品質向上を目指した活動として推進

成果:

  • プロジェクト開始から14ヶ月でISO 13485認証取得
  • 不適合品の発生率が60%減少
  • 従業員のQMS理解度向上
  • 顧客からの信頼向上により海外市場へ展開

大手医療機器メーカーの統合QMS事例

事例2: 総合医療機器メーカーB社のグローバル統合QMS構築

複数の国内拠点と海外子会社を持つB社は、グローバルで統一されたQMSの構築に取り組みました。

成功のポイント:

  • 本社品質部門によるグローバル品質戦略の策定
  • 各国規制要件を統合したグローバル文書体系の構築
  • ITシステムを活用した文書管理・変更管理・不適合製品管理システムの導入
  • 拠点間の品質担当者ネットワークの構築と定期的情報共有
  • MDSAPへの参加による複数国規制への効率的対応

成果:

  • グローバル共通プラットフォームにより、各国規制対応の効率化を実現
  • 監査対応の重複作業を70%削減
  • 製品ライフサイクル全体での品質管理の一貫性向上
  • グループ企業間の品質管理レベルの標準化

認証取得の共通成功要因

上記事例から抽出された成功のための共通要因は以下の通りです。

  1. トップマネジメントの本気度
    • 経営層が形式的ではなく実質的に関与
    • 必要なリソースの確保と明確なメッセージの発信
  2. 実践的なアプローチ
    • 過剰な文書化を避け、実際の業務に即したシステム構築
    • 既存の良い取り組みを活用したQMS構築
    • データの共有化
  3. 全員参加の文化醸成
    • 品質部門だけでなく全部門の積極的参加
    • 全従業員への継続的な教育と意識づけ
  4. 継続的改善の仕組み
    • 認証取得を目的化せず、継続的な改善活動として位置づけ
    • データに基づくPDCAサイクルの運用

よくある課題と対策

文書化の過剰と形骸化

課題: 過剰な文書化や現場と乖離した手順書が作成され、実務と文書が乖離する

対策:

  • 「必要最小限の文書化」の原則を徹底
  • 現場担当者を巻き込んだわかりやすい文書作成
  • 実際の業務フローを観察した上での文書化
  • 定期的な文書のレビューと簡略化

リソース不足への対応

課題: 特に中小企業では、QMS構築・維持のためのリソース(人材・時間・予算)不足が問題になりやすい

対策:

  • フェーズごとの優先順位設定と段階的実装
  • 外部リソース(コンサルタント等)の効果的活用
  • ITツールの活用による効率化
  • 複数の役割の兼務(ただし利益相反に注意)

審査での主な指摘事項と事前対策

よくある指摘事項と対策:

  1. 設計管理の不備
    • 設計インプット/アウトプットの不明確さ
    • 設計検証・妥当性確認の証拠不足
    • 対策: 設計管理手順の明確化、設計レビューの充実化、トレーサビリティマトリックスの活用
  2. リスクマネジメントの不十分な実施
    • リスク検討範囲の漏れ
    • リスク分析の浅さ
    • リスク低減策の有効性評価不足
    • 対策: ISO 14971(製品ライフサイクル全体でのリスク評価)、IEC62366-1(ユーザビリティエンジニアリング)、IEC81001-5-1(サイバーセキュリティ)を統合した体系的なリスクマネジメントの実施
  3. 変更管理の不備
    • 変更管理の適用範囲の不明確さ
    • 変更影響の評価不足
    • 関連文書の更新漏れ
    • 対策: 変更管理プロセスの強化、変更前後のリスク評価の徹底、関連文書のマッピング
  4. 供給者管理の不足
    • 供給者評価の形骸化
    • 購買製品の検証不足
    • 対策: リスクベースの供給者管理、明確な評価基準の設定、定期的な再評価の実施 

まとめと今後の展望

医療機器QMSにおける外部認証取得は、単なる法的要件への対応ではなく、組織の品質文化と製品品質の向上、ひいては患者安全に貢献する重要な取り組みです。成功のカギは、以下の点にあります。

  • トップマネジメントの強力なコミットメント
  • 実践的で効率的なQMSの構築
  • 全従業員の参画と理解
  • 定期的な監視測定
  • 継続的改善の仕組みの確立

今後の医療機器QMSの動向としては、以下が注目されます。

  • 国際的な規制調和の進展: MDSAPの拡大やIMDRFでの取り組みによる各国規制の調和
  • リスクアプローチの強化: より一層のリスク重視の傾向
  • デジタル技術の活用: クラウドベースのQMSシステム、AI活用による品質予測など
  • ESG/サステナビリティとの統合: 環境・社会・ガバナンスの観点も含めた統合マネジメントシステム

外部認証取得は、医療機器メーカーにとって挑戦を伴うプロセスですが、適切に取り組むことで組織能力の強化と製品品質の向上につながります。本稿で紹介した全プロセスとポイントを参考に、効果的・効率的な認証取得に取り組んでいただければ幸いです。

 【QMS認証取得チェックリスト】

□ 経営層のコミットメントを獲得
□ プロジェクト体制を構築
□ ギャップ分析を実施
□ 文書体系を設計・構築
□ 必須手順書を作成
□ 従業員教育を実施
□ 内部監査の仕組みを確立・実施
□ マネジメントレビューを実施
□ 適切な認証機関を選定
□ 審査対応計画を策定
□ 審査での指摘事項に対応
□ 継続的改善のサイクルを回す