QMS適合性調査とは:概要と重要性
医療機器の製造販売業者にとって、QMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)適合性調査は避けて通れない重要なプロセスです。この調査は、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、製造販売業者等の品質管理体制が適切に構築・運用されているかを確認するものです。
初めて適合性調査を受ける企業にとっては、何を準備すべきか、どのような点が重視されるのかが分からず、不安を感じることが少なくありません。しかし、適切な準備と理解があれば、この調査を品質システム向上の機会として活用することができます。
QMS適合性調査の意義
QMS適合性調査は単なる規制要件ではなく、医療機器の品質確保と患者安全のための重要な仕組みです。適切なQMSを構築・維持することで以下のようなメリットがあります:
- 患者安全の確保:品質の高い医療機器を安定して製造・供給できる
- 企業リスクの低減:製品不具合や回収などの発生リスクを減らせる
- 効率的な業務運営:体系的なプロセス管理により業務効率が向上する
- 継続的改善:問題点を早期に発見し、システム改善につなげられる
- 国際展開の基盤:国際的な規制要件への対応がスムーズになる
調査実施機関と審査員の視点
QMS適合性調査は、製品のクラス分類や申請区分によって、以下のいずれかの機関が実施します:
- PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構):認証基準がない管理医療機器(クラスII)、および高度管理医療機器(クラスⅢ・Ⅳ)の承認品目等
- 登録認証機関:認証基準がある管理医療機器(クラスⅡ)の認証品目
調査を行う審査員は、以下のような観点から確認を行います:
- システムの適切性:QMS省令の要求事項を満たすシステムが構築されているか
- 実効性:構築されたシステムが実際に機能しているか
- 継続性:システムが継続的に維持・改善されているか
- トレーサビリティ:製品や工程の追跡可能性が確保されているか
- 文書と実態の整合性:文書化された手順と実際の活動に乖離がないか
これらの視点を理解し、調査準備を進めることが重要です。
適合性調査の種類と準備のタイミング
調査の種類
QMS適合性調査には主に以下の種類があります:
- 承認等前適合性調査:新規の製造販売承認申請時に実施
- 製品の製造販売に関するQMSが適切に確立されているか確認
- 初めての適合性調査となるケースが多い
- 一変時適合性調査:承認事項一部変更承認申請時に実施
- 変更内容によってQMSへの影響が生じる場合に実施
- 製造方法、製造場所、重要な製造設備等の変更時
- 定期適合性調査:承認取得から5年ごとに実施
- 既存のQMSが適切に維持・運用されているか確認
- 前回調査からの変更点や指摘事項への対応状況を重点的に確認
- 追加的調査:必要に応じて実施
- 施行規則第114条の33で指定する医療機器
- 滅菌方法等の変更が申請されたときに、一変時適合性調査時に実施される
- 専門的調査:必要に応じて実施
- 施行規則第114条33で指定する医療機器
- その特性に応じた専門的調査を受ける必要がある場合に実施
- 承認等前適合性調査、定期調査時に実施される場合が多い
調査申請から実施までの流れ
- 調査申請書と添付資料の提出
- 製造販売承認(認証)申請と同時または別途申請
- 添付資料:調査方法の決定に必要な品質管理に関する資料、製造所の情報等
- 調査実施者による審査・日程調整
- 書類の不備確認と追加資料の要求
- 実地調査か書面調査かの判断
- 調査実施の通知
- 調査日程、調査員、調査対象範囲等の通知
- 通常、調査の1〜2ヶ月前に通知
- 実地又は書面による調査の実施
- 実地調査:製造所や製造販売業者の事務所での対面調査、追加資料の提出が必要な場合は指定がある
- 書面調査:書面調査に必要な文書の提出後に書面による調査、不明事項や追加要望がある場合は照会が出る
- 調査結果の通知・基準適合証の交付
- 調査結果の通知(適合/不適合)
- 指摘事項がある場合は、指摘事項書が発行される。改善完了報告が必要となる
- 適合の場合は基準適合証の交付
準備開始の理想的なタイミング
初めての適合性調査に向けては、申請の少なくとも6ヶ月前から準備を開始することをお勧めします。承認・一変申請前適合性調査の場合は速やかに、定期調査の場合は更新期限の6か月以前に申請が必要となります。特に書類の整備や不備の是正には想像以上に時間がかかることを予測し、余裕を持ったスケジュールが重要です。
準備スケジュールの例:
- 6ヶ月前:QMS省令の要求事項の理解と現状分析
- 5ヶ月前:文書体系の整備(品質マニュアル、手順書等)
- 4ヶ月前:記録様式の作成と運用開始
- 3ヶ月前:内部監査の実施と不備の是正
- 2ヶ月前:管理監督者照査の実施
- 1ヶ月前:調査申請書と添付資料の準備
- 0か月前:調査資料の最終確認と調査申請
- 実地調査2週間前:模擬監査を含む最終確認と調査対応の準備
4. 適合性調査前の社内体制構築
品質マニュアルと手順書の整備
適合性調査の基本は、QMS省令の要求事項に沿った品質マニュアルと手順書の整備です。以下のポイントに注意して文書体系を構築しましょう:
- 品質マニュアル(品質管理監督システム基準書)
- QMS省令の要求事項を網羅した最上位文書
- 文書体系の明示
- 組織の品質方針・品質目標を明示
- 組織構造と責任・権限の定義
- 各プロセスの相互関係の明確化
- 手順書(二次文書)
- QMS省令で明示的に要求されている手順書(必須、QMS省令(2021)逐条解説「14.第8条(品質管理監督文書の管理)関係」参照):
- 文書管理(第8条)
- 記録管理(第9条)
- 内部監査(第56条)
- 不適合製品の管理(第60条)
- 是正措置(第63条)
- 予防措置(第64条)
- その他
- その他必要な文書:
- 製品標準書(第6条)
- 品質方針、品質目標(第12条、13条)
- 製品実現計画(第26条)
- 設計・開発文書(第30条)
- 購買管理情報(第37条)
- 製造及びサービス提供の管理(第40条)
- データ分析(第61条)
- その他
- QMS省令で明示的に要求されている手順書(必須、QMS省令(2021)逐条解説「14.第8条(品質管理監督文書の管理)関係」参照):
- 記録様式(三次文書、QMS省令(2021)逐条解説「15.第9条(記録の管理)関係」参照)
- 各手順書に対応する記録様式
- 記録項目の網羅性と使いやすさを考慮
手順書作成の際は、自社の実態に合った運用可能な内容とすることが重要です。他社の手順書や市販のテンプレートをそのまま使用せず、自社のプロセスに合わせてカスタマイズしましょう。
記録の管理体制構築
QMS省令第9条に基づき、適切な記録管理体制を構築します:
- 記録の識別方法
- 記録の種類ごとの標準的な様式の設定
- 記録作成者・日付・版数等の明記
- 記録管理台帳での一元管理
- 保管場所と保管期間
- 記録の種類に応じた保管場所の指定
- QMS省令第68条に基づく保管期間の設定
- 有効期間に1年を加算した期間、または5年間のいずれか長い方
- 特定保守管理医療機器は15年間以上
- 植込医療機器は15年間以上
- 保護の方法
- 記録へのアクセス制限
- バックアップの実施(電子記録の場合)
- 記録保管場所の環境管理(温湿度、防火対策等)
- 廃棄方法
- 保管期間経過後の廃棄手順
- 機密情報の適切な処理方法
電子記録を使用する場合は、ER/ES指針(医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について)に準拠した管理を行うことが必要です。システムのバリデーション、アクセス制限、監査証跡、バックアップなどを手順化し、対策を講じましょう。
責任者の役割明確化と教育訓練
QMS省令第15条に基づき、組織内の責任と権限を明確にし、以下の役割を特定します:
- 管理監督者(社長等)
- 品質方針の策定と周知
- 品質目標の設定
- 資源の確保
- 管理監督者照査の実施
- 管理責任者
- QMSの確立・実施・維持
- 管理監督者へのQMSの実績報告
- 製品要求事項への認識の促進
- 医療機器等総括製造販売責任者
- 品質管理業務と安全管理業務の統括
- 不具合報告等の厚生労働大臣への報告
- 回収の決定と実施
- 国内品質業務運営責任者
- 製造業者等との取決めの締結・実施
- 品質情報、変更管理情報の収集・解析・対応
- 国内の品質管理業務の統括
- その他の責任者
- 製造業、販売業、安全管理業務等にも適用している場合は、責任技術者、安全管理責任者等の薬事上の責任者の役割と権限も明確にします
各責任者には、QMS省令の要求事項や自社の品質システムについての教育訓練を実施し、適合性調査に対応できる知識を身につけさせることが重要です。必要な力量を定め、教育訓練は以下のような内容を含めると効果的です:
- QMS省令の概要と自社システムとの関連
- 責任者の法的責任と義務
- 品質管理の基本原則と重要性
- 不具合発生時の対応フロー
- 適合性調査での対応方法
また、製品品質に大きな影響を与える製造要員、品質管理要員等には、その力量を定期的に確認し、認定することも重要です。
教育訓練の実施記録を作成し、訓練内容の理解度を評価することで、教育訓練の有効性を確認できるようにしましょう。
適合性調査準備の実践的ステップ
必要書類・記録の準備チェックリスト
適合性調査前に準備すべき文書・記録の代表的なものは以下の通りです:
基本文書
- 会社概要、製品概要
- 品質管理監督システム基準書(品質マニュアル)
- 組織図
- 各種手順書(文書・記録管理、内部監査、CAPA等)
- QMS文書(製品標準書、取決め書、品質方針、品質目標等)
- QMS関連の記録(管理監督者照査、内部監査等)
製品関連文書
- 承認書/認証書/届出書
- 設計開発記録
- リスクマネジメントファイル
- 製造記録
- 教育訓練記録
- 購買管理記録
- 苦情処理記録
- 監視測定機器の校正記録
- 不適合製品管理記録
- CAPA記録
これらの文書・記録は、調査時にすぐに提示できるよう整理しておくことが重要です。ファイリングシステムを構築し、インデックスを付けるなどして検索性を高めましょう。電子文書管理システムを使用している場合は、ソフトウェアバリデーション実施状況、アクセス権限の設定や検索機能の確認も行っておきます。
内部監査の実施
適合性調査の約2~3ヶ月前には、QMS省令第56条に基づく内部監査を実施できるように計画し、以下のポイントを確認します:
内部監査の準備
- 監査計画の策定(範囲、判定基準、スケジュール等)
- チェックリストの作成(QMS省令の要求事項に基づく)
内部監査の実施
- 文書レビュー(品質マニュアル、手順書等の確認)
- インタビュー(実務担当者への質問)
- 現場視察・記録確認
内部監査での確認ポイント
- 品質マニュアルや手順書がQMS省令の要求事項を網羅しているか
- 文書化された手順通りに活動が実施されているか
- 必要な記録が適切に作成・保管されているか
- 前回の内部監査で特定された不適合に対する是正措置が有効に実施されているか
- 製品標準書と承認書/認証書の整合性が取れているか
- リスクマネジメント活動が適切に実施されているか
内部監査は、可能であれば外部のコンサルタントや経験者の支援を受けて実施すると、客観的な視点で問題点を洗い出すことができます。また、監査員には内部監査の手法についての教育訓練を事前に実施することも重要です。
発見された不備への対応
内部監査などで発見された不備には、QMS省令第63条(是正措置)に基づき、以下のステップで対応します:
不備対応の手順
- 不適合の影響度評価
- 製品品質や患者安全への影響度の評価
- 規制要件への適合性への影響度の評価
- 根本原因の分析
- なぜなぜ分析等の手法を用いた根本原因の特定
- 問題の表面的な現象だけでなく、真の原因を追究
- 再発防止のための是正措置の立案
- 根本原因に対応した是正措置の立案
- 措置の実施計画(担当者、期限等)の策定
- 是正措置の実施と記録
- 計画に基づく措置の実施
- 実施内容の記録の作成
- 是正措置の有効性確認
- 措置が有効に機能しているかの評価
- 必要に応じた追加措置の実施
重要なのは、調査までに是正措置計画通りに有効性評価まで完了していることです。是正完了遅延の項目があると、調査時に否定的な印象を与える可能性があります。特に重大な不適合については、優先的に対応を進めましょう。
また、一つの部門や製品で見つかった不備が他の部門や製品にも存在する可能性があります。水平展開を行い、類似の問題がないか確認することも重要です。
模擬監査の実施
実地調査の場合は、調査の2週間前には模擬監査を実施して以下のポイントを確認します:
模擬監査の実施
- あらかじめ定めた監査チームによる対応(客観性・公平性を確保)
- オープニングミーティング(監査の目的・範囲、事業所概要、製品概要の説明)
- 文書レビュー(品質マニュアル、手順書等の確認)
- インタビュー(実務担当者への質問)
- 現場視察・記録確認
模擬監査での確認ポイント
- 監査準備に漏れはないか
- 会議スペースに問題はないか
- 監査対応者の対応は適切か
- 役割分担は適切か
- 時間配分に問題はないか
- 現場に不要なものはないか、不適切な取扱いは行われていないか
模擬監査で確認された不備は実地調査までに見直ししておきましょう。また、調査当日に不測の事態が発生していないことを確認するため調査直前の現場視察を行うことも推奨します。
管理監督者照査の実施
内部監査の結果や是正措置の状況を含め、QMS全体の有効性を評価するために、調査前に臨時の管理監督者照査(マネジメントレビュー)を実施するように計画しましょう。QMS省令第18条~第20条に基づき、以下のインプット情報を基に評価を行います:
管理監督者照査のインプット
- 内部監査及び外部監査の結果
- 製品受領者からのフィードバック(苦情等)
- 工程の監視及び測定の結果
- 製品の監視及び測定の結果
- 是正措置及び予防措置の状況
- 前回の管理監督者照査の結果に対するフォローアップ
- 品質管理監督システムに影響を及ぼす可能性のある変更
- 改善のための提案
照査の結果、必要に応じて以下のアウトプットを決定します:
管理監督者照査のアウトプット
- 品質管理監督システムの有効性の改善
- 製品要求事項への適合のために必要な製品の改善
- 資源の必要性
管理監督者照査の記録は、適合性調査の重要な証拠となるため、詳細に記録し保管しておきましょう。照査で決定された事項については、責任者と期限を明確にして確実に実行することが重要です。
よくある指摘事項とその対策
PMDA及び認証機関による適合性調査では、以下のような指摘事項が多く見受けられます。あらかじめ対策を講じておきましょう。
文書・記録管理に関する指摘事項
【指摘例】
- 品質管理監督文書として規定した文書が管理文書台帳に登録されていない
- 文書の配布管理が最新版の記録しかなく、旧版の回収・廃棄が確認できない
- 記録の修正がテープや修正液で行われている
- 文書の承認者が不明確
- 外部文書(法規制文書等)の最新版管理が行われていない
【対策】
- 品質管理監督文書の範囲を明確にし、文書管理台帳に漏れなく登録する
- 文書配布・回収の記録を確実に残す
- 記録の修正は取り消し線で行い、修正者・日付を記入する手順を徹底する
- 文書の承認権限を明確にし、適切な承認を得る
- 法規制文書や規格等の外部文書の最新版を定期的に確認する仕組みを構築する
製品標準書に関する指摘事項
【指摘例】
- 製品標準書に逐条解説で示された必要項目が含まれていない
- 製品標準書と承認書/認証書の記載内容に齟齬がある
- 製品標準書自体の文書管理(改訂履歴等)が不適切
- 製品標準書が最新の製造方法を反映していない
- 製造所間の製造工程の連携が不明確
【対策】
- QMS省令第6条第3項及び逐条解説を確認し、必要項目を網羅する
- 承認書/認証書と製品標準書の整合性を定期的に確認する
- 製品標準書も文書管理手順に従って適切に管理する
- 製造方法の変更時には製品標準書を速やかに更新する
- 複数製造所が関わる場合、各製造所の役割と連携を明確にする
リスクマネジメントに関する指摘事項
【指摘例】
- リスクマネジメントが設計開発段階のみで実施され、製造開始後の情報に基づく見直しがされていない
- リスクマネジメントの実施範囲が明確でない
- リスクコントロール手段の有効性が検証されていない
- リスクマネジメントファイルが適切に維持管理されていない
- 製品実現の全工程におけるリスク評価が行われていない
【対策】
- JIS T 14971(ISO 14971)に基づいたリスクマネジメントプロセスを確立する
- 製造後の情報を基にリスクマネジメントを見直す手順を確立し実施する
- リスクマネジメントファイルの作成と維持管理を確実に行う
- リスクコントロール手段の有効性を検証し記録する
- 設計・開発だけでなく、購買、製造、市販後までの全工程でリスク評価を実施する
内部監査に関する指摘事項
【指摘例】
- 内部監査の範囲がQMS省令の全条項をカバーしていない
- 内部監査で特定された不適合に対する是正措置の有効性確認が行われていない
- 内部監査員が自らの業務を監査している
- 内部監査の結果が管理監督者照査にインプットされていない
- 内部監査の計画が体系的でない(リスクに基づくアプローチが欠如)
【対策】
- QMS省令の全条項をカバーする内部監査計画を策定する
- 内部監査で特定された不適合に対する是正措置の有効性を確認し記録する
- 内部監査員の客観性を確保するため、自らの業務は別の監査員が監査する
- 内部監査結果を管理監督者照査へ確実にインプットする
- リスクに基づいて監査の頻度や深さを決定する仕組みを導入する
データ分析と改善に関する指摘事項
【指摘例】
- データ分析が手順書に規定された頻度で実施されていない
- 苦情に対する是正措置を行わない場合の理由が承認・記録されていない
- 是正措置の有効性評価が記録されていない
- 予防措置と是正措置の区別が不明確
- データ分析の結果が品質システム改善に活用されていない
【対策】
- データ分析の手順書を整備し、規定した頻度で確実に実施する
- 苦情に対する是正措置の要否判断基準を明確にし、是正措置を行わない場合は理由を記録する
- 是正措置の有効性評価方法を手順書に規定し、確実に実施・記録する
- 是正措置(発生した不適合に対する措置)と予防措置(潜在的な不適合に対する措置)の区別を明確にする
- データ分析結果を継続的改善に活用する仕組みを構築する
製造・サービス提供に関する指摘事項
【指摘例】
- 製造工程のバリデーションが適切に実施されていない
- 重要な製造パラメータの管理が不十分
- 製造記録のトレーサビリティが確保されていない
- 製造環境の管理が不適切
- 校正が必要な測定機器の管理が不十分
【対策】
- 製造工程のバリデーション計画を作成し、IQ/OQ/PQを適切に実施・記録する
- 製品品質に影響する重要パラメータを特定し、適切に管理する
- ロット番号等による製造記録のトレーサビリティシステムを確立する
- 製造環境の要求事項を明確にし、適切に監視・記録する
- 測定機器の校正計画を策定し、定期的な校正を実施・記録する
- 再バリデーション実施に関する基準を明確にする
調査当日の対応ポイント
事前準備と対応体制
調査当日には以下の準備をしておきましょう:
物理的な準備
- 調査用の会議室を確保し、必要な文書・記録をすぐに提示できるよう準備
- プロジェクター、モニター、ホワイトボード等の準備
- 休憩スペース、飲料水等の準備
- 製造現場視察のための保護具(クリーンルーム用ガウン、キャップ、靴等)の準備
人的な準備
- 各部門の責任者・担当者の役割分担を明確化
- 調査員からの質問に対応できるよう、QMS省令の要求事項と自社の対応を再確認
- リハーサルの実施(想定質問への回答練習)
- 通訳が必要な場合は、医療機器・QMSに精通した通訳者の手配
資料の準備
- 調査員用の資料セット(組織図、製品概要、QMS概要等)
- 提出を求められる可能性がある文書・記録のリストと保管場所
- 前回調査の指摘事項と是正措置の記録
オープニング・クロージングミーティング
オープニングミーティングでは、以下の点について確認します:
- 調査の目的と範囲
- 調査スケジュール
- 調査員と対応者の紹介
- 守秘義務に関する確認
- 施設のセキュリティやルールの説明
オープニングミーティングでは、企業側から組織の概要や製品の説明を簡潔に行うことが多いです。事前に準備した資料を活用し、明確で分かりやすい説明を心がけましょう。
クロージングミーティングでは、以下の点に注意します:
- 指摘事項の内容を明確に理解する
- 不明点があれば質問する
- 調査結果報告書の受領時期を確認する
- 是正措置の期限を確認する
- 調査員へのお礼と今後の改善への意欲表明
クロージングミーティングは、指摘事項の認識を調査員と合わせる重要な機会です。指摘内容が不明確な場合は、遠慮なく質問して正確に理解するようにしましょう。
質問への回答テクニック
調査中の質問対応では以下のポイントを心がけましょう:
基本的な回答姿勢
- 簡潔・明確に回答する:質問の意図を理解し、要点を絞って回答
- 事実に基づいて回答する:推測や憶測での回答は避け、確認が必要な場合はその旨を伝える
- 文書・記録で証明する:口頭の説明だけでなく、可能な限り文書・記録で裏付ける
- 不明点は正直に認める:わからない場合は、確認して後で回答する旨を伝える
効果的な回答のための具体的テクニック
- 質問の意図を確認する:質問の趣旨が不明確な場合は、「〇〇についてお尋ねでしょうか?」と確認
- 回答の前に整理する:「まず〇〇について説明し、次に△△について説明します」と枠組みを示す
- 具体例を示す:抽象的な説明だけでなく、具体的な事例で説明する
- 図や表を活用する:複雑な内容は視覚的な資料で説明する
- 専門用語の使用に注意する:調査員が理解できる言葉で説明する
指摘事項への対応
調査中に指摘を受けた場合は、以下のように対応することが重要です:
- まずは謙虚に受け止める:指摘に対して反論や言い訳をせず、まずは受け止める
- 事実関係を確認する:指摘内容に事実誤認がある場合は、丁寧に事実を説明する
- すぐに是正できる軽微な事項は対応する:調査中に是正可能な軽微な事項は、即座に対応する
- 改善の意思表示をする:改善に向けた前向きな姿勢を示す
- 是正措置の方向性を示す:可能であれば、是正措置の方向性を簡潔に説明する
調査中の指摘事項は、クロージングミーティングで正式に伝えられますが、調査中の会話からも指摘の可能性がある事項を把握し、早めに対応を検討しておくことが重要です。
調査後の対応と維持管理
指摘事項への是正措置
調査で指摘を受けた事項に対しては、以下のステップで対応します:
- QMS調査指摘事項書の内容を確認
- 指摘の重要度(軽微、重大等)の確認
- 指摘の根拠となるQMS省令条文の確認
- 指摘事項の正確な理解
- 指摘事項の根本原因を分析
- 5Whyなどの手法による根本原因分析
- 製造環境、過去検証を含めた必要十分な調査
- 関連する他のプロセスへの影響確認
- 類似の問題が他の部門・製品に存在しないか確認(水平展開)
- 是正措置計画書を作成し、調査実施者に提出
- 具体的な是正内容の明記
- 実施スケジュールと担当者の設定
- 有効性評価の方法の明記
- 計画に基づき是正措置を実施
- 手順書等の改訂
- 教育訓練の実施
- システム変更の実施
- 是正措置の有効性を評価
- 指摘事項が再発していないか確認
- 改善した手順が適切に機能しているか確認
- 必要に応じて追加措置の実施
- 是正結果報告書を作成し、調査実施者に提出
- 実施した措置の詳細な説明
- 有効性評価の結果
- 関連する証拠書類の添付
特に重要なのは、単に指摘された事項だけを修正するのではなく、同様の問題が他の領域にも存在しないかを確認し、品質システム全体の改善につなげることです。また、是正措置は期限内に確実に完了させ、完了報告書も期限までに提出することが重要です。
基準適合証の管理
適合性調査に合格すると、基準適合証が交付されます。この基準適合証は重要な文書であり、以下のように管理します:
- 有効期間(通常5年間)を確認し、更新時期を管理する
- 安全な場所に保管し、紛失・破損を防止する(掲示することを推奨)
- コピーを作成し、必要に応じて活用する
- 基準適合証の範囲(製品群区分等)を理解する
- 定期調査の申請タイミングを把握する(有効期限の6ヶ月前頃が目安)
継続的な品質システム維持のポイント
適合性調査に合格した後も、品質システムを継続的に維持・改善するために以下の活動を行いましょう:
定期的なシステム評価
- 定期的な内部監査の実施(年1回以上)
- 管理監督者照査によるシステムの見直し(年1回以上)
- 定期的なリスクマネジメントの見直し
データの収集・分析と改善
- 製品品質データの収集と分析
- 顧客フィードバック情報の収集と分析
- 改善の機会の特定と実施
教育訓練の継続
- 新入社員や配置転換者への教育
- 規制要件等の変更に関する教育
- QMS意識向上のための定期的な教育
変更管理の徹底
- 製品設計変更の適切な管理
- 製造工程変更の適切な管理
- 組織変更に伴うQMSへの影響評価
規制動向の把握
- 規制要件の変更に対する迅速な対応
- 業界団体等を通じた最新情報の入手
- 必要に応じたQMSの更新
まとめ:初回適合性調査を成功させるための重要ポイント
初めてのQMS適合性調査を成功させるためのポイントをまとめます:
- 十分な準備期間を確保する:少なくとも6ヶ月前から準備を開始
- QMS省令の要求事項を理解する:条文と逐条解説を熟読し、自社のシステムに反映
- 文書と実務の整合性を確保する:文書化された手順通りに活動が行われていることが重要
- 記録の重要性を認識する:「記録がなければ実施していないと同じ」という原則を徹底
- 内部監査で問題点を事前に洗い出す:第三者視点での内部監査が効果的
- 調査当日は冷静に対応する:質問の意図を理解し、的確に回答
- 指摘事項は品質システム改善の機会と捉える:単なる対症療法ではなく、システム全体の改善につなげる
適合性調査に合格することは、製品の市場投入や継続的な販売の前提条件となるだけでなく、製品の品質確保を通じて患者さんの安全に貢献することにもつながります。QMS適合性調査は、単なる規制要件への対応ではなく、自社の品質システムを見直し改善する貴重な機会です。適切な準備と対応を通じて、医療機器の品質と安全性の向上につなげていきましょう。