更新日: 2025年03月10日
外部委託

【専門家監修】外部委託先評価と管理の実例~医療機器QMSで失敗しない方法

外部委託先評価と管理の実例~医療機器QMSで失敗しない方法

目次

この記事の監修者

居原 範道

医療機器QMSコンサルタント

居原 範道

医療機器QMSにおける外部委託先管理の重要性

現代の医療機器産業において、製造工程や部品供給の外部委託は一般的な経営戦略となっています。特に中小企業では一部工程から完全製造委託まで様々な形態で外部リソースを活用しています。しかし、医療機器という人命に直結する製品において、外部委託先の管理が不十分であると重大な品質問題や市場回収(リコール)につながるリスクがあります。

QMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)において、外部委託先の管理は単なる調達業務ではなく、製品品質の源流管理として位置づけられます。薬機法(医薬品医療機器等法)においても製造所は行政への登録義務があり、医療機器製造販売業者には外部製造所の品質活動を適切に管理・監督する責任があります。本記事では、医療機器QMSにおける外部委託先の評価・管理の実務的アプローチと、よくある失敗事例およびその対策について解説します。 

外部委託先管理の法的要件と規制背景

医療機器等法(薬機法)における製造所管理の位置づけ

薬機法では、医療機器の製造を行う場所は「製造所」として登録が必要です(第23条の2の3)。製造業の登録においては、外部委託の有無にかかわらず、製品の設計、主たる製造業務、滅菌、最終製品保管に関わる製造所すべてが対象となります。その他の包装等保管、試験等の工程に係る事業所も医機法上は製造業者と位置付けれています。これらの製造業者には製造業の登録は求められていませんが、医療機器製造販売業者には、これらの製造所の管理責任があり、この責任は製品ライフサイクル全体にわたって継続します。

QMS省令における外部委託先管理の要求事項

QMS省令(厚生労働省令第169号)では、外部委託先管理に関する要求事項が明確に規定されています。特に重要なのは以下の条項です:

  • 購買工程の管理: 第37条(購買工程)
  • 購買物品の検証: 第39条(購買物品の検証)
  • 設計開発の委託管理: 第35条の2(設計移管業務)や第36条(設計開発の変更の管理)が関連
  • 外部委託の管理: 第5条の5(外部委託)
  • 登録製造業者との取決め書:第72条の2第1項(その他の遵守事項)

これらの要求事項は、外部委託先が提供する製品・サービスが規定要求事項を満たすことを確実にするためのものです。

ISO 13485:2016の関連要求事項

国際規格であるISO 13485:2016では、7.4章「購買」において外部委託先管理に関する要求事項が規定されています:

  • 7.4.1:購買プロセス(供給者評価・選定基準、モニタリング)
  • 7.4.2:購買情報(要求事項の明確な伝達)
  • 7.4.3:購買製品の検証

ISO 13485:2016では、特にリスクベースアプローチが強調されており、製品品質への影響度に応じた管理レベルの設定が求められています。

国際的な規制要件との整合性

海外展開を行う医療機器メーカーにとっては、EU MDR(Medical Device Regulation)や米国FDA QSR(Quality System Regulation)などの国際的な規制要件との整合性も考慮する必要があります:

  • EU MDR:Article 10(8)ではサプライチェーン全体の責任が製造業者にあることを明確に規定
  • FDA QSR:21 CFR 820.50「購買管理」において、供給者評価、合意文書、購買データの検証を要求

これらの要求事項は原則として相互に整合しているため、日本の薬機法・QMS省令に準拠したシステムを構築することで、大部分の国際要件にも対応可能です。

効果的な外部委託先評価・管理プロセスの構築手順

外部委託先の選定基準の策定

効果的な外部委託先管理の第一歩は、明確な選定基準の策定です。製品のリスククラスや工程の重要度に応じて、選定基準を以下のように設定します:

製品リスクに基づく評価基準の例

  • クラスIII・IV製品:厳格な品質システム要件、専門技術能力の証明、過去の実績
  • クラスI・II製品:基本的な品質管理能力、当該製品カテゴリーの経験

具体的な評価基準には以下のような項目が含まれます:

  1. 法的要件(製造業登録、許認可の有無)
  2. 品質マネジメントシステムの成熟度(ISO 13485認証など)
  3. 技術的能力と設備
  4. 財務安定性
  5. 供給の安定性と対応力
  6. 過去の実績とパフォーマンス

初期評価と適格性確認のプロセス

新規の外部委託先候補に対しては、体系的な初期評価を行います:

  1. 質問票によるスクリーニング
    • 基本情報(法人情報、認証状況、主要顧客など)
    • 品質システム情報(マニュアル、主要手順書の有無)
    • 技術能力(設備、技術者、実績)
    • リスク管理体制
  2. 監査(Audit)の実施
    • オンサイト監査:現場確認、プロセス検証、文書レビュー
    • リモート監査:Web会議システムを活用した遠隔地評価
    • 第三者監査結果の活用:MDSAP(Medical Device Single Audit Program)など

監査では、QMS省令・ISO 13485の要求事項に基づくチェックリストを使用し、特に以下の点を重点的に確認します:

  • 組織体制と責任の明確化
  • 文書化された品質システムの運用状況
  • 製造工程の管理状態
  • 教育訓練の実施状況
  • 不適合品の管理と是正処置
  • 変更管理プロセス

契約書・品質取決め書の作成ポイント

外部委託先との合意は、法的拘束力のある文書として明確化する必要があります:

1. 供給契約書(基本契約)

  • 取引条件(価格、納期、支払い条件など)
  • 知的財産権の保護
  • 機密保持条項
  • 契約終了条件と手続き

2. 品質取決め書(Quality Agreement)

  • 製品品質に関する責任分担
  • 品質要件と仕様
  • 変更管理プロセス(事前通知・承認のルール)
  • 不適合対応とCAPAプロセス
  • 記録保管と提供
  • 監査の受け入れ

特に重要なのは変更管理とCAPAに関する合意です。外部委託先での変更が通知されず製品品質に影響することが、医療機器の品質問題の多くを占めています。

継続的モニタリングと再評価

外部委託先の選定・評価は一度きりではなく、継続的なプロセスとして実施することが重要です:

1. パフォーマンス指標(KPI)の設定と評価

  • 品質指標:不適合率、工程内不良率
  • 納期遵守率
  • 対応時間(問い合わせ、是正処置など)
  • 変更管理の適切性

2. 定期監査プログラム

  • リスクベースでの監査頻度設定 (高リスク:年1回以上、中リスク:1-2年ごと、低リスク:2-3年ごと)
  • フォローアップ監査の実施
  • 日常的コミュニケーションの記録

3. 改善活動の促進

  • 定期的なレビュー会議
  • 共同改善プロジェクト
  • 技術支援の提供 

外部委託先管理の実施における課題と解決策

サプライチェーンの複雑性と可視化の課題

医療機器のサプライチェーンは多層構造になっていることが多く、二次・三次サプライヤーの管理が課題となります:

課題

  • 二次サプライヤーの変更が通知されない
  • 原材料の仕入先変更による品質影響
  • サプライチェーン全体の可視性不足

解決策

  1. 契約上の要件:一次サプライヤーに対し、重要な二次サプライヤーの変更に関する通知義務を課す
  2. 重要資材リスト:製品品質に重大な影響を与える材料・部品とそのサプライヤーをリスト化し、特別管理する
  3. サプライチェーンマッピング:製品の主要コンポーネントについて、原材料までのサプライチェーンを視覚化

地理的・文化的障壁の克服

特に海外製造所との連携では、言語・文化的な障壁や時差などが効果的なコミュニケーションを妨げることがあります:

課題

  • 言語の壁によるコミュニケーション不足
  • 品質文化の相違
  • 時差による対応の遅延

解決策

  1. 現地担当者の配置:可能であれば、現地または同地域に品質担当者を配置
  2. 明確な文書化:主要要件を視覚的に表現(フローチャート、チェックリストなど)
  3. リモート技術の活用:Web会議、共有ドキュメントプラットフォームなどの活用
  4. 文化的理解の促進:相互訪問、文化研修の実施

変更管理とデザイン移管の課題

製品ライフサイクルにおける変更管理は、外部委託先管理の中でも特に難しい領域です:

課題

  • 製造所側の「小さな変更」が品質に影響
  • 設計変更情報の不十分な伝達
  • 技術移管時の製造パラメータの不完全な伝達

解決策

  1. 変更影響度評価の共有:変更分類と通知要件の明確化
  2. 定期的な変更レビュー:四半期ごとなど定期的に全変更を振り返る会議の実施
  3. デザイン移管プロトコル:明確な移管手順と検証要件の文書化
  4. プロセスFMEA:重要パラメータの特定と管理方法の共有 

PMDA査察・ISO審査における外部委託先管理の指摘事例と対応

PMDA調査での一般的な指摘事項

PMDAによるQMS適合性調査では、外部委託先管理に関して以下のような指摘事例が見られます:

  1. サプライヤー評価の不備
    • 指摘例:「重要部品供給者に対する評価が形式的で、実質的なリスク評価が行われていない」
    • 対応:リスクベースでの評価基準の明確化と文書化、評価結果に基づく管理レベルの設定
  2. 変更管理の不備
    • 指摘例:「製造所における工程変更が事前に報告されず、変更後の検証が不十分」
    • 対応:変更管理手順の強化、定期的な変更レビュー会議の実施
  3. 品質取決め書の不足
    • 指摘例:「外部製造所との品質取決め書に不適合品の処理に関する責任が明確でない」
    • 対応:包括的な品質取決め書のテンプレート作成と既存契約の見直し

監査準備と対応のポイント

PMDA調査やISO審査に備え、外部委託先管理に関する以下の準備が重要です:

  1. 記録管理と提示方法
    • 外部委託先評価記録の一元管理
    • 評価基準と結果の関連付け
    • 監査頻度の根拠と実施状況の視覚化
  2. 査察官への説明アプローチ
    • リスクベースアプローチの論理的説明
    • 具体的な改善事例の提示
    • 指摘に対する改善計画の迅速な提案
  3. 典型的な質問への備え
    • 「高リスク部品のサプライヤー変更をどう管理しているか」
    • 「サプライヤー監査で不適合を検出した場合のフォローアップ手順は」
    • 「過去の品質問題と外部委託先管理の関連性をどう分析しているか」 

外部委託先管理の成功事例と失敗事例

成功事例:リスクベースアプローチの効果的実装

事例:クラスIII医療機器メーカーA社の取り組み

A社は約30社の外部委託先を以下のように分類し、管理レベルを最適化しました:

  • 重要度レベル1(5社):製品機能に直接影響する部品・工程
    • 年次監査必須、四半期ごとのレビュー会議
  • 重要度レベル2(10社):製品品質に影響するが代替可能
    • 1-2年ごとの監査、半年ごとのレビュー
  • 重要度レベル3(15社):間接材料など
    • 自己評価質問票と必要時の監査

この分類により、限られたリソースを効率的に配分でき、重要サプライヤーとの関係強化に注力した結果、5年間で重大な品質問題が70%減少しました。

失敗事例と教訓:コミュニケーション不足による品質問題

事例:在宅医療機器メーカーB社のケース

B社は海外製造所に製造委託していた人工呼吸器の部品変更により市場回収を余儀なくされました。

問題の経緯

  1. 製造所が「同等品」として部品サプライヤーを変更
  2. 形状・機能は同等だったが、材質の微妙な違いが長期使用時に問題を引き起こした
  3. 製造所は「同等変更」と判断し、事前通知せず
  4. 変更から6か月後に市場不具合が発生、調査で原因特定

教訓

  1. 「同等」の判断基準を明確に規定する必要性
  2. 重要部品については製造所の判断だけでなく、製造販売業者の確認を必須とする
  3. 定期的な部品履歴の確認プロセスの導入

これからの外部委託先管理:デジタル化と国際展開

デジタル技術を活用した外部委託先管理の高度化

外部委託先管理は今後、デジタル技術の活用によりさらに効率化・高度化が進むと考えられます:

  1. クラウドベースの品質管理システム
    • リアルタイムでの品質データ共有
    • 変更管理・CAPA処理のワークフロー自動化
    • 監査・評価記録の一元管理
  2. データ分析による予測的アプローチ
    • 品質トレンド分析による早期警告
    • サプライヤーパフォーマンスの継続的モニタリング
    • AI活用による潜在リスクの特定
  3. ブロックチェーン技術の活用
    • 部品・原材料のトレーサビリティ確保
    • 改ざん不可能な品質記録の管理
    • 偽造品対策の強化

グローバルサプライチェーン管理の戦略

国際展開を行う医療機器メーカーにとって、グローバルな視点での外部委託先管理が重要になります:

  1. グローバル・ローカル戦略の最適化
    • グローバル共通の基本要件と地域固有要件の整理
    • 地域ごとの規制要件マッピング
    • 地域担当者とのコミュニケーション体制
  2. レジリエンス(回復力)の強化
    • サプライチェーンの脆弱性評価
    • 代替サプライヤー・製造拠点の確保
    • 在庫戦略と生産計画の最適化
  3. 国際的認証・監査プログラムの活用
    • MDSAPなど単一監査プログラムの活用
    • 業界団体の評価プログラム活用(例:Rx-360)
    • 第三者監査結果の効果的な活用 

まとめ:失敗しない外部委託先管理のための5つのポイント

医療機器QMSにおける外部委託先管理を成功させるための重要ポイントは以下の5点です:

  1. リスクベースの管理アプローチ
    • 製品リスクと供給リスクの両面から評価
    • リソース配分の最適化
  2. 明確な品質取決めと責任分担
    • 包括的な品質取決め書の作成
    • 変更管理・不適合対応の明確な手順化
  3. 効果的なコミュニケーション体制
    • 定期的なレビュー会議
    • 問題発生時の迅速な対応ルート確保
  4. 継続的モニタリングと改善
    • KPIによるパフォーマンス評価
    • 予防的アプローチの強化
  5. パートナーシップの構築
    • 一方的な監査・管理から協力関係への発展
    • 共同改善活動の推進

外部委託先の管理は、単なる規制要件への対応ではなく、製品品質と患者安全の確保という医療機器メーカーの根本的な責任を果たすための重要な活動です。本記事で紹介した実践的アプローチを参考に、自社の外部委託先管理システムを見直し、継続的に改善することで、医療機器QMSの効果的な運用を実現してください。


実用的チェックリスト:外部委託先管理の自己評価

□ 外部委託先の評価基準が製品リスクに応じて明確に文書化されている
□ すべての外部委託先に対する初期評価と定期的再評価のスケジュールがある
□ 品質取決め書に変更管理とCAPAに関する明確な要件が含まれている
□ 重要部品・工程に関わるサプライヤーの二次サプライヤーまで把握している
□ 外部委託先のパフォーマンスを測定するKPIが設定され、定期的に評価されている
□ 外部委託先との定期的なコミュニケーション体制が確立されている
□ 過去の品質問題から得られた教訓が外部委託先管理プロセスに反映されている
□ PMDA調査・ISO審査に対応できる外部委託先管理の記録が整備されている