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#データインテグリティ #文書管理 #バリデーション #法規制

【専門家監修】データインテグリティとは?医療機器QMSの実務対応

データインテグリティとは?医療機器QMSの実務対応

目次

この記事の監修者

中野 裕士

医療機器メーカー代表/QMSmart開発者

中野 裕士

データインテグリティ(Data Integrity、DI)は製薬業界のGMPで語られることが多い概念ですが、医療機器メーカーにとっても他人事ではありません。医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号。以下「QMS省令」)第9条第2項は記録の「完全性の確保」を求めており、その施行通知はこれを明確に「データインテグリティ」と呼んでいます。本記事では、ALCOA+の9原則を医療機器QMSの記録に当てはめながら、日本の法令上どこまでが義務なのか、紙やExcelの運用で何が問題になるのか、監査証跡をどう設計するのかを整理します。QMS適合性調査やISO 13485審査を控えた品質保証部の担当者が自社の記録管理を点検できるよう、セルフチェックリストも用意しました。

データインテグリティとは?医療機器メーカーが押さえるべき結論

データインテグリティとは、データが生成されてから廃棄されるまでのライフサイクル全体を通じて、完全かつ一貫性があり、正確で信頼できる状態が保たれていることを指します。医療機器メーカーにとってこれは努力目標ではなく、QMS省令第9条第2項に基づく法的な要求事項です。

本記事の結論を先に3点で示します。

  1. 国際的な判断基準はALCOA+の9原則です。 Attributable(帰属性)、Legible(判読性)、Contemporaneous(同時性)、Original(原本性)、Accurate(正確性)の5原則に、Complete(完全性)、Consistent(一貫性)、Enduring(耐久性)、Available(可用性)の4原則を加えたものです。
  2. 日本の医療機器メーカーにとっては法的義務です。 QMS省令第9条第2項が記録の「完全性の確保」を明文で求めており、その解釈を示す施行通知はこれを「データインテグリティ」と呼んでいます。GMPの話だから自社には関係ない、という理解は誤りです。
  3. 紙でもExcelでも要求水準は同じです。 ただし「誰が・いつ・何を・なぜ変更したか」を後から証明する監査証跡の要求を、紙とExcelだけで満たすのは運用負荷の面で現実的に困難です。

データインテグリティという言葉に馴染みがなくても、実質的にはすでに取り組んでいるはずです。記録に日付と署名を入れる、訂正するときは二重線を引いて訂正印を押す、記録を施錠した書庫に保管する。これらはすべてデータインテグリティの実践です。本記事が扱うのは、その延長線上にある「電子的な記録をどう扱うか」という論点です。QMS省令の全体像から確認したい方は医療機器QMS・品質保証(QA)とは?もあわせてご覧ください。

ALCOA+(アルコアプラス)の9原則と医療機器QMSでの具体例

ALCOA+とは、記録が信頼できるかどうかを判断するための9つの原則です。Attributable、Legible、Contemporaneous、Original、Accurateの頭文字をとったALCOAの5原則に、Complete、Consistent、Enduring、Availableの4原則を「+」として加えた枠組みで、GxP領域の査察・監査で共通の判断軸として使われています。

9原則を医療機器QMSの記録に当てはめる

抽象的な原則のままでは実務に落ちません。QMS省令が作成・保管を求める記録に当てはめると、次のようになります。

原則

分類

意味

医療機器QMSでの具体例

Attributable

ALCOA

誰が行ったか特定できる

設計開発照査の議事録に出席者と承認者が記名されている。試験検査の記録に実施者の署名がある

Legible

ALCOA

判読できる・恒久的である

鉛筆や消えるボールペンを使わない。スキャンした苦情記録の文字が判読できる

Contemporaneous

ALCOA

行為と同時に記録する

製造ロット記録を作業終了後にまとめて清書せず、工程ごとにその場で記入する

Original

ALCOA

原記録またはその真正な写し

測定機器から出力された生データを保持する。転記した数値だけを残さない

Accurate

ALCOA

正確で誤りがない

校正記録の測定値が機器の出力と一致している。単位や桁の誤りがない

Complete

+

欠落がない

再測定を行った場合、初回の測定データも理由とともに残す

Consistent

+

時系列・形式が一貫している

内部監査記録の日付が監査計画と矛盾しない。ページ番号が連続している

Enduring

+

保管期間を通じて残る

保管期限まで媒体が劣化せず、バックアップが取得されている

Available

+

必要時に取り出せる

適合性調査で求められた記録を、その場で検索して提示できる

この表を自社の記録一覧と突き合わせると、どの原則が弱いかが見えてきます。多くの企業でつまずくのはAttributableとCompleteです。

ALCOA+はどこで定義された枠組みか

ALCOA+は単一の法令や規格に定義された用語ではなく、複数の規制当局のガイダンスを通じて実務上定着してきた枠組みです。代表的なものとして、英国MHRAが2018年に公表した「GXP」Data Integrity Guidance and Definitions、およびPIC/Sが2021年7月に発効させたPI 041-1(Good Practices for Data Management and Integrity in Regulated GMP/GDP Environments)が挙げられます。

略号の使い分けについては、注意点が1つあります。米国FDAの「Data Integrity and Compliance With Drug CGMP: Questions and Answers」(Guidance for Industry、2018年12月)では「ALCOA」の語が用いられ、「+」を付した9原則という整理は採られていません。さらにMHRAのガイダンス自身も、本文では「ALCOA+」ではなく「ALCOA」の略号を用いると述べたうえで、どちらの略号を使っても期待される水準に違いはないとしています(同ガイダンス3.10)。

つまり「ALCOA+でなければならない」という規制上の要求はありません。9つの属性が確保されていれば、社内でどちらの呼び方を使っても差し支えないと理解してください。

日本の医療機器メーカーにDI対応は義務か — QMS省令の条文根拠

日本の医療機器メーカーにとって、データインテグリティへの対応は法的義務です。根拠はQMS省令第9条第2項であり、その解釈を示す施行通知が明示的に「データインテグリティ」という語を用いています。

日本語のデータインテグリティ解説の多くは製薬・GMPの文脈で書かれているため、医療機器メーカーの担当者が自社に関係があるのかを判断しにくい状況にあります。ここでは条文レベルで整理します。

QMS省令第9条第2項 — 完全性の確保がDIの直接の根拠

QMS省令第9条(記録の管理)第2項は、次のように定めています。

製造販売業者等は、前項の記録の識別、保管、セキュリティ確保(当該記録について、漏えい、滅失又は毀損の防止その他安全管理を行うことをいう。)、完全性の確保(当該記録が正確であり、記録が作成された時点から不適切な改変がない状態を保つことをいう。)、検索、保管期間及び廃棄についての所要の管理方法に関する手順を文書化しなければならない。

注目すべきは「完全性の確保」の定義部分です。「記録が正確であり、記録が作成された時点から不適切な改変がない状態を保つこと」は、ALCOA+のAccurate(正確性)・Original(原本性)・Complete(完全性)が求める内容と重なります。特に「作成された時点から」という起点の置き方は、記録が作成された後の改変を追跡・防止せよという要求であり、後述する監査証跡の直接の根拠になります。この規定は令和3年の改正で追加されました。なお同条第3項では、医療機器等の使用によって得られた個人情報の適正管理も求められています。苦情処理や設計開発で患者情報を扱う場合は、この規定もあわせて確認してください。

施行通知はこれを「データインテグリティ」と呼んでいる

QMS省令の解釈を示す施行通知(令和3年3月26日付薬生監麻発0326第4号。令和7年1月31日一部改正。以下「施行通知」)の「15.第9条関係(3)」は、次のように記載しています。

第2項のセキュリティ、完全性の確保(データインテグリティ)に関する手順とは、例えば、記録の一貫性が分かるよう日付及びページ番号等を付与すること、記録を修正した場合に修正箇所等が分かるように修正すること、意図していないアクセスから制限すること等が考えられること。

厚生労働省の通知がQMS省令第9条第2項の要求を「データインテグリティ」と明記している事実は、実務上大きな意味を持ちます。義務の根拠そのものは条文である第9条第2項ですが、条文に「データインテグリティ」という語は出てきません。社内でDI対応の必要性を説明する際は、条文と通知をセットで示すのが最も伝わりやすい形になります。

ここで挙げられた3つの具体策は、通知の文言どおり「例えば〜等が考えられること」という例示であり、この3つだけを行えば足りるというものでも、これ以外は不要というものでもありません。ただし実装の指針としては有用です。「日付及びページ番号等の付与」は一貫性の担保、「修正箇所等が分かるように修正すること」は監査証跡、「意図していないアクセスから制限すること」はアクセス権限に対応します。

文書の劣化防止(第8条第2項第7号)とソフトウェアのバリデーション(第5条の6)

記録だけでなく、品質管理監督文書についても同様の要求があります。QMS省令第8条第2項第7号は「品質管理監督文書の劣化又は紛失を防止すること」を求めており、施行通知「14.第8条関係(8)」はこの号について、保管方法(鍵のついた所定の棚での保管、ファイリングの方法等)を定めることや、「文書を電磁的に管理する場合にはそのバックアップ等必要な管理方法を定めること」等が考えられる、としています。ここで注意したいのは、法的な義務は第8条第2項柱書と第7号が求める「劣化又は紛失を防止する管理方法を手順書に記載すること」であって、バックアップはその具体策として通知が挙げた例示だという点です。とはいえ電子化を選ぶのであれば、劣化・紛失防止の実装としてバックアップの方法を手順書に落とすのが現実的な解になります。文書管理の要求事項全般はQMSの文書管理システムとは?で解説しています。

もう一つ見落とされやすいのが、QMS省令第5条の6(ソフトウェアの使用)第1項です。品質管理監督システムにソフトウェアを使用する場合、その適用に係るバリデーションについて手順を文書化しなければならないと定めています(限定一般医療機器のみを製造販売する限定第三種医療機器製造販売業者は、この条の適用から除かれます)。施行通知「14.第8条関係(3)」はQMS省令第2章が文書化を要求する手順を32件列挙していますが、その1件目がこの規定であり、ISO 13485:2016の4.1.6に対応することが示されています。

対象範囲は施行通知「10.第5条の6関係(2)」で例示されており、基幹系情報システム(ERP・MES)、文書・記録の管理システム、CAD、苦情・不適合・是正措置および予防措置の管理システムが挙げられています。経理処理や事務処理に使用するソフトウェア等、医療機器の品質・安全性・有効性に影響しないものは対象外です。バリデーションの深さも一律ではなく、施行通知「10.第5条の6関係(5)」はソフトウェアの使用によるリスクに応じて管理の程度を定める趣旨であるとし、適用のバリデーションにISO/TR 80002-2を参照できることを示しています。

なお、記録や文書を電磁的に管理する具体的方法については、施行通知「14.第8条関係(9)」が「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」(平成17年4月1日付薬食発第0401022号 厚生労働省医薬食品局長通知)、いわゆるER/ES指針を参照することが望ましいとしています。指針の内容と最新規制との関係は医療機器QMSソフトウェアバリデーション実践ガイド 〜ER/ES指針と最新規制の統合解説〜で扱っています。

製薬GMPとの違いは「根拠条文」と「保管期限の長さ」

要求される中身はほぼ同じですが、根拠となる法令が異なります。製薬分野ではDIはガイドラインと査察の運用を通じて求められているのが実態で、日本のGMP省令の条文に「データインテグリティ」や「ALCOA+」という語が置かれているわけではありません。この点、条文に「完全性の確保」の定義が明記されている医療機器のQMS省令はむしろ根拠が明快です。

医療機器固有の論点は保管期限の長さです。QMS省令第67条(品質管理監督文書の保管期限)および第68条(記録の保管期限)は、次の期間を定めています。

対象

特定保守管理医療機器に係る製品

それ以外の医療機器等に係る製品

起算点

品質管理監督文書(第67条)

15年(有効期間+1年が15年より長い場合はその期間)

5年(有効期間+1年が5年より長い場合はその期間)

廃止の日から

記録(第68条)

15年(同上)

5年(同上)

作成の日から

いずれも教育訓練に係るものは5年間です。なお第67条第1項ただし書により、製品の製造又は試験検査に用いた品質管理監督文書については、第68条に規定する期間、当該文書が利用できるように保管することで足りるとされています。

ここで効いてくるのがEnduring(耐久性)とAvailable(可用性)です。15年後にその記録を読み出して提示できるでしょうか。当時のファイル形式が読めるか、外付けHDDが生きているか、担当者しか場所を知らないフォルダが残っているか。保管期限が長い医療機器業界では、この論点が製薬以上に重くのしかかります。

紙・Excel運用に潜むDIリスクと典型的な指摘パターン

紙とExcelでの記録管理は違法ではありませんが、ALCOA+の観点で穴が生じやすい運用です。ここでは指摘を受けやすいパターンを、違反する原則とあわせて整理します。

典型的な運用

何が問題か

違反する原則

作業後にまとめて記録を清書する

行為と記録の時点がずれ、事後の再構成であることが疑われる

Contemporaneous

鉛筆や消えるボールペンで記入する

記録が改変可能な状態にあり、原本として扱えない

Legible / Original

修正液や塗りつぶしで訂正する

修正前の値が失われ、訂正の履歴が追えない

Original / Complete

共有アカウントでExcelを編集する

誰が入力・変更したかを特定できない

Attributable

共有フォルダに「最新版」「最新版2」が並ぶ

最新版が判別できず、廃止版が使われるおそれがある

Consistent

測定をやり直し、良い結果だけを残す

初回データが欠落する。意図的であれば重大な逸脱として扱われる

Complete / Accurate

バックアップを取得していない

媒体の故障やPCの入れ替えで記録が消失する

Enduring

退職者のPCやローカルフォルダに記録が残る

保管場所が管理されず、必要時に取り出せない

Available

Excelそのものが禁止されているわけではありません。問題は、標準的なExcelファイルには変更履歴を強制的に残す仕組みがなく、誰がいつどのセルを書き換えたかを事後に証明できない点にあります。さらにExcelマクロ等を品質管理監督システムの一部として使う場合は、第5条の6に基づき自社でバリデーションの手順を文書化し、実施・記録する責任が生じます。

監査証跡・電子署名・版管理・アクセス権限 — DIを担保する4つの仕組み

データインテグリティを実際に担保するのは、監査証跡・電子署名・版管理・アクセス権限という4つの仕組みです。これらは施行通知「15.第9条関係(3)」が例示する具体策と、第8条第2項が求める文書管理の要求に、それぞれ対応しています。

監査証跡(audit trail)とは

監査証跡とは、記録に対して「誰が・いつ・何を・なぜ」変更したかを、変更前の値とともに時系列で自動的に残す仕組みです。オーディットトレイルとも呼ばれ、電子記録におけるデータインテグリティの中核をなします。

ここでいう監査証跡は、医療機器QMSやGxP領域における記録の変更履歴を指します。会計監査やJ-SOX(内部統制報告制度)で使われる同名の用語や、データベースの操作ログ一般とは目的が異なるため、社内で議論する際は文脈を揃えておくと混乱を避けられます。

紙の記録における監査証跡は、訂正時の二重線・訂正印・訂正日・訂正理由の記載です。電子記録では、これをシステムが自動的に記録します。電子記録については、PIC/SのPI 041-1「9.6 Audit trails for computerised systems」が、電子記録の作成・変更・削除の日時を独立して記録する、セキュアでコンピュータが生成しタイムスタンプの付いた監査証跡をシステムが備えるべきとしており、手動で残す方式ではなくシステムによる自動生成が前提とされています。

監査証跡が満たすALCOA+の原則は4つあります。変更者が特定できることでAttributable、変更時刻が自動記録されることでContemporaneous、変更前の値が保持されることでOriginal、変更の全履歴が欠落なく残ることでCompleteを担保します。逆にいえば、監査証跡のない電子記録は、これら4原則を同時に失っている状態です。日本の法令上の根拠は、QMS省令第9条第2項が求める「完全性の確保」=「記録が作成された時点から不適切な改変がない状態を保つこと」です。施行通知「15.第9条関係(3)」は、その実装例として「記録を修正した場合に修正箇所等が分かるように修正すること」を挙げています。

実務設計で決めるべき論点は4点あります。第1に監査証跡を取得する対象範囲、第2に監査証跡そのものの保管期間(QMS省令に監査証跡の保管期間を定めた規定はありませんが、監査証跡は記録と切り離せないメタデータであるため、第68条が定める記録の保管期限に合わせるのが実務上の基本です)、第3に誰がいつレビューするか、第4に監査証跡自体が改変されない仕組みになっているか。特に第3のレビュー運用は、仕組みを導入しただけで運用していない状態になりやすく、調査で確認されるポイントです。

電子署名 — 責任の帰属を電子的に確定する

電子署名は、承認者が誰であるかを電子的に確定し、Attributableを担保する仕組みです。単なる氏名の入力欄ではなく、本人しか実行できない認証を伴っている必要があります。

医薬品・医療機器分野における要件は前述のER/ES指針が示しています。同指針は電磁的記録について真正性・見読性・保存性の3要件を掲げたうえで、電子署名には「署名者の氏名」「署名が行われた日時」「署名の意味(作成、確認、承認等)」を含めることを求めています(同指針4.(3))。「署名の意味」は「等」を付した例示ですので、作成・確認・承認の3種に限定する必要はなく、自社の承認フローに合わせて定義してかまいません。

版管理とアクセス権限

版管理はQMS省令第8条第2項が明文で求めている要件です。同項第3号は変更内容および最新の改訂状況が識別できるようにすること、第4号は改訂版を利用できるようにすること、第8号は廃止した文書が意図に反して使用されることを防止することを求めています。第8号は文書を保持する場合には廃止されたものであることが適切に識別できるようにしておくことも定めており、共有フォルダに旧版が残っている運用はこの識別が働いていない状態にあたります。

アクセス権限の設定は、施行通知「15.第9条関係(3)」が例示する「意図していないアクセスから制限すること」に直接対応します。編集権限を業務上必要な範囲に限定するのが、この例示の中身です。加えて、権限の付与・変更・削除の履歴を残しておくと、調査で運用の実態を示しやすくなります(PIC/S PI 041-1「9.5 System security for computerised systems」は、最小権限の原則と利用者権限の定期的なレビューを挙げています)。ここは法令上の要求ではなく実務上の備えとして押さえてください。よく問題になるのが、システム管理者が記録を直接編集でき、その操作が監査証跡に残らないケースです。管理者権限であっても記録の改変が追跡できる設計になっているかは、システム選定時に必ず確認してください。

これら4つを紙やファイルサーバーの運用だけで成立させようとすると、変更履歴の手動記録、版の目視確認、フォルダ権限の個別設定といった作業が積み上がり、担当者の負荷と抜け漏れのリスクが同時に増えていきます。医療機器QMSに特化した電子QMS(eQMS)であれば、監査証跡・電子署名・版管理・アクセス権限が標準機能として備わるため、第9条第2項が求める記録の完全性の確保と、第8条第2項が求める文書管理の要件を、運用努力ではなく仕組みで満たすことができます。QMSmartはこれら4機能を標準で備えており、第5条の6が求めるソフトウェアの適用のバリデーションについても、導入時に必要な文書を整えられる構成になっています。導入の判断材料は電子QMS導入のメリットと課題にまとめています。

データインテグリティ対応の実務ステップとセルフチェックリスト

DI対応は、対象記録の棚卸しから始めて手順書への反映で完結させます。いきなりシステムを検討するのではなく、自社がどの記録を、どの媒体で、いつまで保管しているかを可視化するのが最初の一歩です。

5つの実務ステップ

  1. 対象記録を棚卸しする。 施行通知「15.第9条関係(2)」は、QMS省令第9条第1項で作成・保管が求められる記録として47項目を列挙し、各項目にQMS省令の条番号とISO 13485:2016の箇条番号を対で記載しています。この一覧をそのまま棚卸しの出発点に使えます。必要な文書と記録の全体像は医療機器QMS必須文書リストも参考になります。
  2. 媒体・保管場所・保管期限をマッピングする。 記録ごとに媒体(紙/PDF/システム内)、保管場所、保管期限、責任部門を一覧化し、第67条・第68条の期限まで判読性と可用性が保てるかを媒体ごとに評価します。
  3. 手順書に反映する。 第9条第2項が求めているのは「手順を文書化」することです。識別、保管、セキュリティ確保、完全性の確保、検索、保管期間、廃棄の7項目について管理方法を落とし込みます。
  4. ソフトウェアを使う場合はバリデーションを行う。 第5条の6に基づき、適用のバリデーションについて手順を文書化し、初めて使用するとき、およびソフトウェアまたはその適用を変更するときに実施します。第3項はリスクに応じたバリデーションを求めており、施行通知「10.第5条の6関係(5)」はこれを管理の程度を定める趣旨としています。対象システムのリスク評価から着手するのが順序です。
  5. 教育訓練と定期的な有効性確認を行う。 仕組みを入れても、運用する人が「なぜ後追い記入がいけないのか」を理解していなければ形骸化します。ALCOA+の考え方を教育訓練に組み込み、内部監査で監査証跡のレビュー実施状況を確認する運用にしてください。

DI対応セルフチェックリスト

自社の現状を点検するためのチェックリストです。根拠となる条番号もあわせて示しています。なお施行通知を根拠に挙げた項目は、通知が「例えば〜等が考えられること」として示した例示にあたります。これらを行えば十分というものではなく、逆にこの形でなければならないというものでもありません。自社の記録の性質に合わせて読み替えてください。

  • [ ] 記録の識別・保管・セキュリティ確保・完全性の確保・検索・保管期間・廃棄の管理方法を手順書に記載している(第9条第2項)
  • [ ] QMS省令が求める記録を一覧化し、媒体と保管場所を把握している(施行通知15.第9条関係(2))
  • [ ] 記録に日付およびページ番号等を付与し、一貫性が分かるようにしている(施行通知15.第9条関係(3))
  • [ ] 記録を修正した場合、修正箇所と修正前の内容が分かる方法をとっている(同上)
  • [ ] 記録へのアクセス権限を業務上必要な範囲に制限している(同上)
  • [ ] 電子記録について、誰が・いつ・何を変更したかが自動的に記録される(監査証跡)
  • [ ] 監査証跡を誰がいつレビューするかを手順で定め、実施記録が残っている
  • [ ] システム管理者による記録の変更も監査証跡に残る設計になっている
  • [ ] 品質管理監督文書の劣化・紛失を防止する管理方法を定めている(第8条第2項第7号)
  • [ ] 電磁的に管理する文書のバックアップ方法を手順書に定めている(施行通知14.第8条関係(8))
  • [ ] 文書の最新の改訂状況が識別でき、改訂版が利用できる状態にある(第8条第2項第3号・第4号)
  • [ ] 廃止した文書が意図に反して使用されない仕組みがある(第8条第2項第8号)
  • [ ] QMSに使用するソフトウェアの適用のバリデーション手順を文書化している(第5条の6第1項)
  • [ ] 保管期限(第67条・第68条)まで記録が判読可能かつ取り出し可能である
  • [ ] 医療機器等の使用によって得られた個人情報の管理方法を定めている(第9条第3項)

よくある質問

データインテグリティとALCOA+の違いは何ですか?

データインテグリティは「記録が信頼できる状態にあること」という目的そのものを指し、ALCOA+はそれが達成されているかを判断するための9つの原則を指します。目的と評価軸の関係にあると理解してください。実務では、自社の記録がALCOA+の9原則を満たしているかを点検することがデータインテグリティの確保につながります。

QMS省令に「データインテグリティ」という言葉は出てきますか?

QMS省令の条文そのものには「データインテグリティ」という語はありませんが、第9条第2項が「完全性の確保」を求めており、その解釈を示す施行通知「15.第9条関係(3)」が明確に「セキュリティ、完全性の確保(データインテグリティ)」と記載しています。したがって日本の医療機器メーカーにとってDI対応は法的な要求事項です。義務の根拠は条文である第9条第2項であり、通知はその要求が一般にデータインテグリティと呼ばれるものだと示すもの、と整理してください。

医療機器メーカーもPIC/SのDIガイドラインに従う必要がありますか?

PIC/SのガイダンスはGMP/GDP環境を対象としたもので、医療機器QMSに直接適用されるものではありません。ただしALCOA+の考え方は共通しているため、実務上の参考資料として有用です。医療機器メーカーにとっての直接の根拠はQMS省令第9条第2項であり、施行通知はその解釈を示すものです。社内手順はこの条文を軸に整えてください。

紙の記録だけでもデータインテグリティは満たせますか?

満たせます。QMS省令は電子化を義務づけていません。日付・署名・二重線と訂正印による訂正・施錠保管といった基本を徹底すれば、紙でもALCOA+の要求に応えられます。ただし記録量が増えるほど、検索性(Available)と保管期間中の判読性(Enduring)を人手で維持するコストが上がる点は考慮が必要です。

Excelはどこまでなら使ってよいのでしょうか?

使ってはいけないという規定はなく、線引きは記録の重要度で決まります。判断の目安は、その記録が製品の品質・安全性・有効性の判断に直結するかどうかです。第5条の6第3項はソフトウェアの使用に伴うリスクに応じてバリデーションを行うことを求めており、施行通知「10.第5条の6関係(5)」はこれをリスクに応じて管理の程度を定める趣旨だとしています。QMS省令はもともとリスクに応じた作り込みを想定しているということです。出荷可否の判定に使う試験検査記録のように影響が大きいものから優先して仕組み側で担保し、影響の小さい記録は運用ルールで補うという順序が現実的です。なお、シート保護やパスワードは編集を制限するだけで変更履歴を残さないため、監査証跡の代替にはなりません。

監査証跡とシステムのアクセスログは同じものですか?

目的が異なります。アクセスログは主に「誰がいつシステムに接続し、どの画面を開いたか」を記録するもので、記録の中身がどう変わったかまでは追えないのが一般的です。監査証跡(audit trail)は変更前後の値と変更理由を保持し、事象の経過を後から再構成できることを目的とします。PIC/S PI 041-1は監査証跡に含めるべき項目として、実施者、変更内容(変更前後の値を含む)、日時、理由を挙げており、接続履歴だけのログではこれを満たせません。既存システムを評価する際は、ログの有無ではなく変更前の値が残るかどうかで判断してください。

監査証跡はどこまで残せばよいですか?

QMS省令に監査証跡の保管期間や取得範囲を定めた規定はないため、対象範囲・保管期間・レビュー方法は自社で決めて手順書に落とすことになります。監査証跡は記録と切り離せないメタデータであるため、保管期間は第68条が定める記録の保管期限(特定保守管理医療機器は15年、それ以外は5年が基本)に合わせるのが実務上の基本です。対象範囲は医療機器の品質・安全性・有効性に影響する記録を優先し、リスクに応じて設定してください。仕組みを導入しただけでレビューを運用していない状態は指摘対象になりやすいため、レビューの頻度と担当者まで決めておくことをおすすめします。

QMS適合性調査ではデータインテグリティをどう見られますか?

記録が要求どおりに作成・保管されているか、手順書に定めた管理方法が実際に運用されているかという観点で確認されます。具体的には、第9条第2項が求める7項目の管理方法が手順書に記載されているか、記録の訂正が追跡可能な方法で行われているか、電子記録の場合は監査証跡とアクセス権限が機能しているかが見られます。

まとめ — データインテグリティは「電子化」ではなく「証明できる状態」の問題

データインテグリティの本質は、記録が信頼できることを後から第三者に証明できる状態をつくることにあります。電子化はそのための手段のひとつであり、目的ではありません。本記事の要点は次の4点です。

  1. ALCOA+の9原則が判断軸です。 Attributable、Legible、Contemporaneous、Original、Accurateの5原則に、Complete、Consistent、Enduring、Availableを加えた枠組みで自社の記録を点検してください。
  2. 日本の医療機器メーカーには法的義務があります。 QMS省令第9条第2項が記録の完全性の確保を求め、施行通知「15.第9条関係(3)」がこれをデータインテグリティと明記しています。
  3. 保管期限の長さが医療機器固有の論点です。 第67条・第68条が定める最長15年という期間を通じて、記録が判読可能かつ取り出し可能である必要があります。
  4. 担保するのは監査証跡・電子署名・版管理・アクセス権限の4つの仕組みです。 これらが機能していれば、ALCOA+の主要な原則は自動的に満たされます。

紙とExcelでの運用は違法ではありませんが、記録量が増え保管期限が長くなるほど、この4つを人手で維持するコストは上がっていきます。記録管理の電子化を検討する段階では、監査証跡・電子署名・版管理・アクセス権限が標準機能として備わっているか、そして第5条の6が求める適用のバリデーションに必要な文書が用意されているかを選定基準に含めてください。まずは施行通知「15.第9条関係(2)」の記録一覧で自社の記録を棚卸しし、本記事のセルフチェックリストで現状を点検するところから始めることをおすすめします。

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