MDSAP・QMSR・EU MDR——海外展開の検討を始めると、この3つの略語がほぼ同時に出てきます。しかしMDSAPは監査の枠組み、QMSRは米国の品質システム規則、EU MDRは欧州の市販前規制であり、性格がまったく違います。本記事では、日本国内で製造販売している医療機器を米国・欧州・英国へ輸出する場合に何の手続きが必要かを、進出先ごとに一次情報の条番号つきで整理します。2026年2月2日に施行された米国QMSRの中身、EU MDRの移行期限が「もう使えない品目」がある理由、そしてMDSAPを使う判断までを扱います。
【結論】海外展開で最初に決める3つのこと
海外展開の実務は、進出先・規制ルート・監査戦略の3点を決めれば大枠が固まります。順序を逆にして「まずISO 13485を取ろう」から入ると、進出先によっては不要な作業が発生したり、必要な手続きが抜けたりします。
進出先が決まれば、事業者側の届出・域内代理人・市販前手続・QMSの根拠法はすべて国ごとに別建てで決まります。監査戦略は、各国の監査・査察を個別に受けるか、MDSAP(Medical Device Single Audit Program)で1回の監査を複数当局向けに使うかの選択で、ここが工数に最も効きます。
項目 | 米国(FDA) | 欧州(EU) | 英国(GB) | 日本(参考) |
|---|
事業者の届出・登録 | 施設登録+機器リスト(21 CFR Part 807) | Eudamedへの登録とSRN取得(MDR Art.31) | MHRAへの登録 | 製造販売業許可 |
域内の代理人 | 米国代理人(§807.40(b)) | EU代理人(Art.11) | UKRP | 選任製造販売業者 |
市販前手続 | 510(k)/De Novo/PMA | 適合性評価+CEマーキング(Art.52・Art.53) | UKCA または CE(受入期限内) | 届出/認証/承認 |
QMSの根拠 | QMSR(21 CFR Part 820。クラスIの多くは分類規則で大部分が適用免除) | EU MDR Art.10(9) | UK MDR 2002 | QMS省令 |
第三者機関 | 強制的な第三者機関はない(FDAが直接査察)。ただしMDSAP調査機関・510(k)第三者レビュー機関を任意で使える | Notified Body | UK Approved Body | 登録認証機関/PMDA |
「登録」「認証」「承認」は国ごとに別物
海外規制で最も誤解が多いのが、日本語に訳すと似てしまう語の中身です。米国の「施設登録」は事業者と品目をFDAのシステムに届け出る行為で、審査を伴いません。EUの「CEマーキング」は製造業者が適合を宣言してマークを付す行為で、クラスに応じてNotified Bodyが関与します。日本の「承認」「認証」は審査を経た行政処分です。この3つを「取得」という同じ動詞でまとめて考えると、事業計画のスケジュールが崩れます。
国内側のクラス分類と承認・認証・届出の判定が固まっていない場合は、医療機器のクラス分類と承認・認証・届出の判定手順を先に確認してください。製品がソフトウェア単体(SaMD)の場合はSaMDのQMS対応も併せて参照が必要です。
米国①:FDA施設登録・機器リストと市販前届出(510(k))
米国向けの手続きは、事業者側の「施設登録+機器リスト」(21 CFR Part 807)と、品目側の「市販前届出」(510(k)等)の2系統に分かれます。前者は届出、後者は審査であり、片方だけでは市販できません。
施設登録は毎年10月1日〜12月31日に更新し、米国代理人は1名だけ指定する
初回の登録と機器リストの提出は、§807.20(a)に定める操作を開始した日から30日以内に行います(§807.22(a))。ただし外国製造所については、FDAは米国への輸出を開始する前に登録を完了しておくことを求めています。機器リストに載っており、かつ登録済みの外国施設で製造されたものでなければ輸入できない(§807.40(c))以上、「操作開始から30日以内」を最初の出荷の期限と読み替えることはできません。
ここでいう「操作」とは、同項が挙げる医療機器の製造・調製・増殖・調合・組立て・加工に従事することを指します。登録情報に変更が生じたときも30日以内に更新します(同(b)(2))。手続きは原則としてFDAの電子登録システムを通じて行います(§807.21(a)。電子申請が合理的でない場合は免除を申請できます=同(b))。そのうえで、すべての事業者は毎会計年度の10月1日から12月31日までの期間に登録と機器リストを更新しなければなりません(§807.22(b)(1)・(b)(3))。機器リストは変更がない年もこの期間に情報の正確性を確認します(同(b)(3))。期限内に提出しないと施設は「failed to register」または「failed to list」の状態になり、アクティブとみなされません(同(c))。年次登録には年度ごとに改定される手数料も必要です。
日本の製造所は「外国製造業者」として登録し、米国代理人(United States Agent)の氏名・住所・電話番号を登録情報として提出します(§807.40(b))。指定できるのは1名のみで、米国内に居住しているか米国内に事業所を有していなければなりません(同(b)(1))。米国代理人はFDAの要請に応じて連絡の補助、輸入製品に関する質問への回答、査察日程の調整の補助を行い(同(b)(2))、氏名・住所・電話番号の変更は10営業日以内にFDAへ報告します(同(b)(3))。また、FDAが外国製造所に直接または迅速に連絡できない場合、FDAは米国代理人へ情報・文書を提供することができ、それは外国製造所へ提供したのと同等とみなされます(同(b)(2)後段)。米国代理人は単なる連絡係ではなく法的な受領窓口でもあるため、FDAからの連絡が確実に自社へ届く体制を契約で担保しておく必要があります。
「FDA登録済み」は承認でも認証でもない
施設登録と機器リストは届出であり、製品の安全性・有効性の審査を含みません。したがって「FDA登録済み」を承認や認証の意味で表示することはできず、登録や登録番号を根拠に公的な承認を受けたかのような印象を与える表示は不正表示(misbranding)に当たります(§807.39)。510(k)のクリアランスについても同様です(§807.97)。他方で、機器リストに載っており、かつ登録済みの外国施設で製造されていなければ、そもそも米国に輸入できません(§807.40(c))。ただしpart 812の治験使用の規定に基づいて輸入される機器は、この制限の対象外です(同(c)ただし書き)。登録は市販の前提条件であって、市販の許可ではありません。
510(k)は「流通開始の90日前まで」に提出する
市販前届出(510(k))は、商業的流通の開始を予定する日の少なくとも90日前までにFDAへ提出します(§807.81(a))。この90日は提出期限であって、FDAの審査に要する期間ではありません。FDAは実質的同等(SE)と認める命令、認めない命令、追加情報の要求などの対応を行い、SEの命令を受けるまで製品を市販することはできません(§807.100(a)(5))。なお放射線発生電子製品(§1000.3に定義。X線装置・レーザー機器等)を製造する場合は、Part 807の要求に加えてpart 1002の報告要求にも従います(§807.81(c))。
SEの判定基準は§807.100(b)に3つあり、①予定される使用(intended use)が既存機器(predicate device)と同一であること、②技術的特性が同一か、異なる場合はデータで同等の安全性・有効性が示され、異なる疑義を生じないこと、③predicate deviceが長官(Commissioner of Food and Drugs)の発意で市場から撤去されておらず、司法命令で不正表示(misbranded)または不良品(adulterated)と判断されてもいないこと(同(b)(3))です。predicateを選ぶ際には③の適格性も必ず確認します。既存機器に依拠できない高リスク品目はPMA、既存機器がない新規のクラスI・II相当はDe Novoのルートになります。
設計変更が新たな510(k)を要する場合がある
すでに流通している製品でも、設計・構成部品・製造方法・予定される使用に重大な変更を加える場合は、新たな510(k)の提出対象になります(§807.81(a)(3))。同条は例として、安全性・有効性に著しい影響を与えうる変更(設計・材料・化学組成・エネルギー源・製造プロセスの重大な変更など)または予定される使用の大幅な変更を挙げています。一方、FD&C Act第515C条に基づいてFDAのクリアランスを受けた事前変更管理計画(PCCP:predetermined change control plan)があり、変更がそのPCCPに沿っている場合は市販前届出は不要です(同(b)(1)(ii)。2024年3月15日追加=89 FR 18792)。
「重大かどうか」の判断の枠組みは、FDAの最終ガイダンス「Deciding When to Submit a 510(k) for a Change to an Existing Device」(2017年10月25日発行・82 FR 49375)が示しています。ソフトウェアの変更は別冊の「Deciding When to Submit a 510(k) for a Software Change to an Existing Device」(同日・82 FR 49382)が対象です。いずれも拘束力のない推奨であり(21 CFR 10.115)、要求を満たすなら別の方法をとることもできます。実務上重要なのは、「新たな510(k)は不要」と判断した場合にこそ、その判断過程と結論の根拠を文書化すべきだとされている点です。ガイダンスは、FDAの調査官や第三者が「何を変更したのか」「なぜ届出不要と結論したのか」を理解できる形で記録すること、各判断ポイントの検討内容と最終結論を残すこと、試験や工学的解析を行ったならその結果も記録または参照することを求めており、フローチャートに印を付けただけ、各設問に「はい」「いいえ」と答えただけでは不十分だと明示しています。当初の前提が後に成り立たなくなった場合に再評価する仕組みを、文書化のプロセスに含めることも求めています。なおこのガイダンスは根拠として§820.30(i)・§820.70(b)・§820.40を挙げていますが、これらはQMSR施行(2026年2月2日)で[Reserved]となり、現行のPart 820には存在しません。現行では、設計・開発の変更管理は§820.10(c)によりISO 13485 Clause 7.3およびその下位箇条の対象になります(クラスII・クラスIII機器等)。判断に迷う場合は、FDAに市販前の相談を申し込む枠組み(Q-Submissionプログラム)があります(同プログラムは2026年時点も運用されています。91 FR 7495・2026年2月18日)。
同じ変更について国内では一変か軽微変更届のどちらに当たるかを別途判断することになり、判断軸も期限も米国とは異なります(一部変更承認申請と軽微変更届の判断基準)。
相手先ブランド供給(OEM)では、登録は役割ごとに決まり510(k)は原則1件
自社ブランドで販売しない場合、誰が何を提出するのかが分かれます。Part 807の義務は「役割」に紐づいており、契約上の呼称ではなく実際に行う行為で決まります。
役割 | 施設登録・機器リスト | 510(k) |
|---|
日本の製造所(実際に製造する) | 必要。外国製造業者として登録し米国代理人を1名指定(§807.40(a)・(b)) | 自社ブランドで出す場合は必要(§807.81(a)(2))。相手先ブランド品でも製造所が510(k)保有者になれる |
仕様開発者(自社で仕様を決め、製造は第三者に委託) | 必要(§807.20(a)(1)) | その者が初めて商業流通に置くなら必要(§807.81(a)(2)) |
受託製造者・受託滅菌者(仕様開発者のために製造・滅菌する) | 必要(§807.20(a)(2)) | 自らは商業流通に置かないため通常は不要 |
相手先ブランドで販売する米国側事業者のうち、表示の内容を変更して自社名で流通させる者(relabeler) | 必要(§807.20(a)(3)) | 他の者が提出済みなら免除(§807.85(b)(2)) |
原表示を変更せず、自社名を加えるだけの事業者 | relabelerに当たらず、この理由では不要。ただし自ら輸入するならinitial importerとして必要(§807.20(a)(5)) | 通常は不要 |
単なる卸売業者(製造・再包装・加工・ラベル貼替をしない) | 不要(§807.20(c)) | 不要 |
initial importer(§807.3(g)) | 必要(§807.20(a)(5))。自ら仕様開発・再包装・ラベル貼替をしていない機器は、製造業者の名称・住所の提出でリスト義務を果たせる | 通常は不要(自社名を付して初めて商業流通に置く場合は§807.85(b)(2)の免除要件を確認) |
登録が「二重」になるのが正常です。日本の製造所(§807.40(a))は必ず登録が必要で、米国側の事業者も、その行為に応じて別途登録の対象になります。「パートナーが売るのだから手続きはパートナーがやる」と考えると製造所の登録が抜け、機器リストと登録済み外国施設という輸入の前提条件(§807.40(c))を満たせなくなります。
ただし米国側の登録根拠は「自社ブランドで売るかどうか」ではなく、実際に何をするかで決まります。§807.20(a)(3)の対象は「機器を再包装または表示の貼替えをする者」であり、FDAはrelabelerを「原製造業者から供給された表示の内容を変更して自社名で流通させる者」と定義したうえで、原表示を変更せず自社名を加えるだけの事業者はrelabelerに含まれないと明示しています。したがって、"Distributed by ○○" を加えるだけの米国側パートナーは§807.20(a)(3)では登録義務者になりません。この場合でも、自ら輸入するのであればinitial importerとして登録が必要です(§807.20(a)(5))。年次登録には手数料がかかるため、どの条文で誰が登録するのかは供給契約の締結前に確定させてください。
一方、510(k)は原則1件で足ります。他の者がすでに510(k)を提出していれば、自社名で初めて商業流通に置く販売者や、自社名を付す再包装者は市販前届出を免除されます(§807.85(b)(2)。ラベル以外を変更せず、機器に影響を与えない場合に限ります)。「双方が出す」も「どちらも出さない」も誤りです。どちらが510(k)を保有するかは供給契約で明示しておいてください。保有者が以後の変更管理と査察対応の主体になります。
規則上、510(k)の保有者を「ラベルに名前が載る側」に限る定めはありません。§807.81(a)の柱書は提出義務の主体を「§807.20により登録義務がある者」としており、§807.87(b)も提出者をその者自身の施設登録番号で特定します。§807.85(b)(2)が「他の者が提出済みなら自社名で置く販売者を免除する」という構造をとっていること自体、製造所側が保有する形を規則が想定していることの表れです。変更管理の主導権を握りたい場合は、製造所側が510(k)を保有するという選択ができます。なお、自社以外のラベルで流通させるために製造した機器については、FDAの求めに応じて、その相手先すべての名称を提出できるようにしておく義務があります(§807.26(e)(7))。
米国②:QMSR(2026年2月2日施行)と査察方式の変更
21 CFR Part 820は2026年2月2日にQMSR(Quality Management System Regulation)として施行済みです。最終規則「Medical Devices; Quality System Regulation Amendments」は2024年2月2日に公示され(89 FR 7496、Document No. 2024-01709)、2年間の準備期間を経て効力を持ちました。移行予定でも移行期間中でもなく、すでに現行の規則です。本記事における米国の条文の引用は、2026年8月28日時点のeCFR現行版に基づきます。
条文構成が変わり、ISO 13485:2016が引用された
旧QS Regulationは設計管理・文書管理・購買管理などをSubpart C以降に並べていましたが、現行のPart 820はSubpart A(§820.1 Scope/§820.3 Definitions/§820.5 [Reserved]/§820.7 Incorporation by reference/§820.10 Requirements for a quality management system)とSubpart B(§§820.20-820.30 [Reserved]/§820.35 Control of records/§820.40 [Reserved]/§820.45 Device labeling and packaging controls)だけで構成され、Subparts C-Oはすべて [Reserved] です。
旧規則の実務要素は条文から消えましたが、要求がなくなったわけではありません。§820.7がISO 13485:2016(E)(第3版・2016年3月1日)を§820.1・§820.3・§820.10・§820.35・§820.45について引用(incorporation by reference)しており、その中身が規則の要求として取り込まれています。§820.3の用語についてはISO 9000:2015(E) Clause 3も引用されています。§820.10(a)は、ISO 13485の該当要求とPart 820の他の要求に適合するQMSを文書化することを求めます。
なお、ISO 13485の箇条が連邦食品医薬品化粧品法(FD&C Act)やその他の施行規則と衝突する場合は、法および規則が優先します(§820.1(b))。ISO 13485という規格そのものの箇条構成と要求事項はISO13485とは?医療機器の国際品質規格への対応法で解説しています。
ISO 13485だけでは足りない — 米国固有の上乗せと他パートとの接続
条文上の上乗せは§820.35と§820.45の2条ですが、§820.10にも適用範囲の上乗せがあります。§820.35(記録の管理)はISO 13485 Clause 4.2.5に加えて、まず機器・表示・包装が仕様に適合しない可能性のある苦情について、レビュー・評価・調査の記録を求めます(同種の苦情を既に調査済みなら再調査は不要ですが、調査しないことの正当化を記録します)。そのうえで、part 803によりFDAへの報告対象となる苦情、製造業者が調査すべきと判断した苦情、およびそれらの要求に関わらず製造業者が調査した苦情については、7項目(機器の名称/苦情の受領日/UDIまたはUPC等の機器識別/苦情申立者の氏名・住所・電話番号/苦情の内容と詳細/実施した修正・是正/申立者への回答)の記録を要求します(同(a))。附帯サービスの記録には最低限6項目(サービスした機器の名称/UDIまたはUPC等/サービス実施日/実施者/実施したサービス/試験・検査データ)が必要で(同(b))、UDIは機器または機器のバッチごとに記録します(同(c))。§820.45(表示・包装の管理)はISO 13485 Clause 7.5.1に加えて、表示・包装の完全性・検査・保管・作業に関する手順の文書化と維持を要求し、該当する場合には放出または保管の前にUDIまたはUPC・使用期限・保管条件・取扱条件・追加の処理指示の正確性を確認させます(同(a))。さらに、表示を使用のために放出したことをISO 13485 Clause 4.2.5に従って文書化すること(同(b))と、取り違えを防ぐために、使用前の表示・包装の検査を含む作業を確立し維持すること(同(c))も求められます。
さらに§820.10(b)は、ISO 13485の特定の箇条を満たすためにFDAの他の規則を併せて守ることを明示しています。Clause 7.5.8(識別)にはpart 830に従うUDI割当ての仕組みの文書化、Clause 7.5.9.1(トレーサビリティ)には該当する場合のpart 821に従う手順、Clause 8.2.3(規制当局への報告)にはpart 803の報告基準に該当する苦情のFDAへの通知、Clauses 7.2.3・8.2.3・8.3.3にはpart 806に従う勧告的通知の処理が対応します。また設計開発(Clause 7.3およびその下位箇条)は、クラスII・クラスIIIと、ソフトウェアで自動化されたクラスI機器および表に列挙された5品目に適用されます(§820.10(c))。加えて、生命を維持または支持する機器であって、表示に記載された使用説明書に従って適正に使用したときに機能しないと重大な傷害をもたらすと合理的に予期されるものの製造業者は、Part 820の他の適用要求に加えて植込み機器のトレーサビリティ(ISO 13485 Clause 7.5.9.2)にも適合する必要があります(§820.10(d))。Part 820の要求に適合しない機器は、FD&C Act第501(h)条により不良品(adulterated)となり、当該機器および不適合の責任者は規制措置の対象となります(同(e))。
なおクラスIの多くの機器は、それぞれの分類規則(21 CFR part 862〜892)でPart 820の大部分の適用が免除されており、残るのは記録の管理(§820.35)です。2025年12月4日の技術的修正(90 FR 55978)で、この免除が参照する条文が旧§820.180・§820.198から§820.35に置き換えられました。免除の条件は機器ごとに異なるため、自社品目の分類規則(21 CFRの該当条)でGMP免除の有無と範囲を必ず確認してください。クラスI相当品でQMSRの全面対応を設計してしまうと、不要な工数が発生します。
QSITは停止し、Compliance Program 7382.850による査察へ
2026年2月2日をもって、FDAはQSIT(Quality System Inspection Technique)の使用を停止しました。以降の医療機器製造業者の査察は「Inspection of Medical Device Manufacturers Compliance Program: 7382.850」に基づいて行われ、同日以降はCompliance Program 7382.845および7383.001は使用されません。
同時に押さえるべきは、FDAはISO 13485適合証明書を要求せず、発行もしないことです。最終規則の前文でFDAは、ISO 13485への認証をFDA査察の代わりに受け入れるのは適切でないと述べ、適合証明書を持つ製造業者もFDA査察を免除されないと明記しています。ここで受け入れられないとされているのはISO 13485の認証そのものであり、FDA固有の規制要求も監査範囲に含むMDSAPの監査報告書とは扱いが異なります(後述)。
内部監査・供給者監査・マネジメントレビュー報告書が査察対象になった
旧QS Regulationの§820.180(c)には、マネジメントレビュー・品質監査(内部監査)・供給者監査の報告書をFDA査察官の閲覧対象から除外する規定がありました。QMSRの制定過程でこの除外を維持すべきだという意見が多数寄せられましたが、FDAは維持しないと回答しました。理由は国際整合であり、「他の規制当局の査察や他機関の監査(例:MDSAP調査機関)では同様の除外が認められていないため、これらの記録を提供させても追加の負担にはならない」というものです。
したがってQMSR下では、内部監査報告書とマネジメントレビュー記録は査察で閲覧される前提で作成する必要があります。旧規定は、除外の見返りとして「FDAの指定職員の求めがあれば、経営陣の責任者が、マネジメントレビュー・品質監査・(該当する場合)供給者監査を実施し文書化した旨、実施日、必要な是正措置を講じた旨を書面で証明する」という仕組みを置いていました(旧§820.180(c)後段)。この代替手段もQMSRには引き継がれていません。書面の証明を用意しても報告書の提示は免れません。旧規則の時代に「内部監査報告書は査察官に開示しない記録」として運用してきた企業は、すでに作成済みの報告書も含めて、記録の様式・記載粒度・保管場所を査察で提示される前提に切り替える必要があります。なお記録の秘密性の扱いは§820.35(d)に引き継がれており、機密と判断した記録には21 CFR part 20(情報公開規則)に基づく開示可否の判断に資する表示を付すことができます。ただしこれは情報公開に基づく開示可否の判断のためのもので、査察官の閲覧を拒む根拠にはなりません。QMSRが求める記録を電子的に作成・保管する場合は、21 CFR Part 11(電子記録・電子署名)の要求が別に適用されます(21 CFR Part 11とは?医療機器の対応要否と4つの場面)。
欧州:EU MDR・CEマーキングと移行期限
EU向けは、クラスに応じた適合性評価を経てCEマーキングを付すという一本の流れに、EU域外メーカー固有の体制要求とEudamed登録が加わります。本記事の記載は2026年7月19日時点のMDR統合版(02017R0745 — EN — 19.07.2026)に基づきます。
クラス分類・適合性評価と、EU域外メーカーに必要な2つの体制
機器はクラスI・IIa・IIb・IIIに分類され、分類はAnnex VIIIに従います(Art.51(1))。クラスに応じた適合性評価手続はArt.52、Notified Body(NB)の関与はArt.53が定めます。NBを使う認証取得の実務は外部認証取得の全プロセスで扱っています。
加盟国内に拠点がない製造業者は、単一のEU代理人(authorised representative)を指定しなければEU市場に上市できません(Art.11(1))。これとは別に、製造業者は規制順守責任者(PRRC:person responsible for regulatory compliance)を組織内に置く必要があります(Art.15(1))。PRRCには、法学・医学・薬学・工学その他の関連科学分野の学位に加えて医療機器の薬事または品質マネジメントシステムに関する実務経験1年以上、あるいは同分野の実務経験4年以上という資格要件があります(同(1)(a)(b))。ただしEUの定義による零細企業・小企業は組織内に置く義務までは負わず、PRRCを常時継続的に利用できる状態にしておけば足ります(Art.15(2))。ここでいう零細企業・小企業はCommission Recommendation 2003/361/ECの定義で、零細企業=従業員10人未満かつ売上高または総資産2百万ユーロ以下、小企業=従業員50人未満かつ売上高または総資産1千万ユーロ以下です。日本の「中小企業」の語感とは大きく異なり、従業員50人以上の企業はこの免除を受けられません。また親会社・関係会社がある場合は、資本・議決権の関係に応じてそれらの従業員数・財務数値を合算して判定します(同Recommendation Article 3)。EU代理人が「域内の窓口」、PRRCが「規制順守の責任者」で、役割が違います。
事業者側は、カスタムメイド以外の機器を上市する前にArt.30の電子システムへ登録し、管轄当局の検証を経て単一登録番号(SRN:single registration number)を受け取ります(Art.31(1)・(2))。製造業者はSRNをNBへの適合性評価申請とEudamedへのアクセスに使用し、登録情報に変更が生じたときは1週間以内にデータを更新します(同(3)・(4))。さらに、初回の情報提出から1年以内、以後2年ごとにデータの正確性を確認する義務があり、この期限から6か月を超えて履行しない場合、加盟国は自国領域内で適切な是正措置を取ることができます(同(5))。UDIシステムはArt.27、機器の登録はArt.29が定めます。
Eudamed:2026年5月28日から使用が義務
Eudamedは任意運用の段階を終えています。欧州委員会はCommission Decision (EU) 2025/2371(2025年11月26日採択、11月27日OJ掲載)で最初の4モジュール——事業者登録(Actor)、UDI/機器登録、Notified Body・証明書、市場監視——の機能性を宣言しました。Regulation (EU) 2024/1860が定める6か月の移行期間を経て、2026年5月28日からこの4モジュールの使用が義務になっています。残る2モジュール(ビジランス、臨床評価)は機能性が宣言された時点で義務化され、こちらには任意運用の期間が置かれません。
日本の製造業者が押さえるべき期限は3つです。
対象 | 期限 |
|---|
事業者登録(製造業者・EU代理人・輸入業者)とSRN取得 | 2026年5月28日(機器を上市する前) |
2026年5月28日以降に上市する機器のUDI/機器登録 | 上市前 |
2026年5月28日より前に上市済みで、以後も販売を続ける機器(旧指令由来の機器を含む) | 2026年11月28日 |
2026年5月28日より前に発行された証明書のアップロード(Notified Body側) | 2027年5月28日 |
3行目が実務上いちばん見落とされます。Art.120(3a)の移行期限で上市を続けている旧指令由来の機器も対象で、同一のUDI-DIについて1回登録すれば足りますが、旧指令由来の機器にはBasic UDI-DIに代えてEUDAMED-DI/EUDAMED-IDを生成する必要があります。品目数が多い企業ほど作業量が読みにくいので、11月の期限から逆算して着手してください。逆に、2026年5月28日以降に販売する在庫が残っていない機器は、市販後監視やビジランスの措置が発生しない限りUDI/機器モジュールへの登録は不要です。
移行期限(Art.120):延長の入口はすでに閉じている
この節は、旧指令(MDD/AIMDD)に基づいてすでにEU市場に出している機器の話です。これから初めてCEマーキングを取得する品目は、最初からMDRの適合性評価を受けるルートになり、以下の期限とは関係ありません。その場合は前節のとおり、Annex VIIIでクラスを確定し、Art.52の適合性評価手続とNBを選ぶところから始めます。なお旧指令のNB証明書を持たない機器でも、MDDでNBの関与が不要とされ、2021年5月26日より前に適合宣言を作成していた機器はArt.120(3b)の対象になります(後述)。
旧指令(MDD/AIMDD)の証明書のうちArt.120(2)により有効なものに基づく機器の上市・使用開始(put into service)の期限は、Art.120(3a)により次のとおりです。
対象 | 上市可能な期限 |
|---|
すべてのクラスIII、およびクラスIIb植込み機器(縫合糸 sutures・ステープル staples・歯科充填材 dental fillings・歯科矯正具 dental braces・歯冠 tooth crowns・ネジ screws・くさび wedges・プレート plates・ワイヤ wires・ピン pins・クリップ clips・コネクタ connectors を除く) | 2027年12月31日 |
上記以外のクラスIIb、クラスIIa、滅菌状態で上市されるまたは計量機能を有するクラスI | 2028年12月31日 |
上段の括弧内に挙げた除外品目——骨接合用スクリューは screws、骨接合用プレートは plates に当たります——に該当するクラスIIb植込み機器は、下段の「上記以外のクラスIIb」(Art.120(3a)(b))に落ち、上市期限は2028年12月31日になります。ここでの「除く」は移行措置の対象外という意味ではありません。なおこの12品目は業界で「WETリスト」(well-established technologies)と呼ばれることがありますが、これはMDR Art.120の条文用語ではありません。
MDDでNBの関与が不要だったがMDRでは必要になる機器で、適合宣言が2021年5月26日より前に作成されたものも2028年12月31日まで上市できます(Art.120(3b))。
ただしこの延長は無条件ではありません。Art.120(3c)は(a)〜(e)の5つの条件をすべて満たすことを求めています。①旧指令への継続適合(同(a))、②設計および意図する目的に重大な変更がないこと(同(b))、③患者・使用者等の健康・安全その他の公衆衛生の保護の面で許容できないリスクがないこと(同(c))、④2024年5月26日までにArt.10(9)に適合するQMSを整備していること(同(d))、⑤2024年5月26日までにNBへ正式申請(Annex VII Section 4.3第1段落)を行い、かつ2024年9月26日までにNBと書面契約を締結(同第2段落)していること(同(e))の5つです。④⑤の期限はすでに経過しており、新たに延長の対象に入ることはできません。一方、①〜③は延長期間中も満たし続ける必要があり、とくに②により、延長期間中に設計や意図する目的へ重大な変更を加えると延長の適用が外れます。「2027年まで猶予がある」という理解で計画を立てている場合は、自社品目が(3c)の5条件を満たし続けているかを最初に確認する必要があります。
5条件のいずれかを満たさない品目には、この延長は及びません。Art.120(3)の柱書が「(3c)の条件が満たされることを条件として」と定めているため、条件を欠く品目は2027年/2028年の期限を待たずに、旧指令の証明書に基づく上市ができなくなります。注意が必要なのは、証明書そのものの有効性を延長するArt.120(2)第2段落には(3c)への参照がないことです。つまり「証明書は形式上は有効に見えるが、(3c)を満たさないため上市はできない」という状態がありえます。「証明書が有効だから出荷してよい」という判断は誤りです。確認は、NBに対してAnnex VII Section 4.3の正式申請の受理日と書面契約の締結日を書面で照会し、あわせてArt.10(9)に適合するQMSの整備時期を社内記録で確かめるのが確実です。
さらに、移行期間中であっても、MDRの市販後監視・市場監視・ビジランス・経済事業者および機器の登録に関する要求は、旧指令の対応する要求に代えてすでに適用されています(Art.120(3d))。延びたのは上市の期限であって、市販後の義務はすでにMDRのものに切り替わっている点に注意が必要です。
すでに適法に上市された機器は引き続き市場で入手可能にできます(Art.120(4)。いわゆるsell-off期限は撤廃されています)。クラスIIIカスタムメイド植込み機器の猶予(Art.120(3f)・2026年5月26日)も経過済みです。
CEマーキングは「マーク」であって承認ではない
CEマーキングは、製造業者がMDRへの適合を宣言してマークを付す仕組みです。行政庁が個別品目を審査して交付する日本の承認・認証とは構造が異なり、クラスIのうち非滅菌・非計量で再使用可能な外科用器具でもないものは自己宣言、それ以外はクラスに応じてNBが関与します(Art.52(7))。ただしクラスIのうち滅菌状態で上市されるもの・計量機能を有するもの・再使用可能な外科用器具については、NBの関与範囲が限定されており、順に滅菌状態の確立・確保・維持に関わる側面、計量に関する要求への適合に関わる側面、再使用(とくに洗浄・消毒・滅菌・保守・機能試験および関連する使用説明)に関わる側面に限られます(同(7)後段(a)〜(c))。「CEマークを取得した」という表現は正確ではなく、実際に取得するのはNBの証明書です。
また2024年の改正(Regulation (EU) 2024/1860)でArt.10aが新設され、カスタムメイド機器を除く機器について、患者や公衆衛生に重大な危害が生じうる供給の中断・停止を予見した製造業者は、原則として中断の6か月前までに、製造業者またはEU代理人が所在する加盟国の管轄当局および直接の供給先へ理由を付して通知する義務を負います。この義務はArt.120(3a)・(3b)の旧指令由来機器にも適用されます(Art.120(13))。
英国:UKCAとGB市場でのCE受入期限
英国はGB(イングランド・ウェールズ・スコットランド)と北アイルランドで規制が分かれます。GBの根拠法はMedical Devices Regulations 2002(SI 2002 No 618, as amended)=UK MDR 2002で、北アイルランドにはEU MDRが適用されます(2021年5月26日以降)。
GB市場でのCE受入期限
機器の適合先 | GB市場での上市期限 |
|---|
有効な適合宣言とCEマーキングを伴うEU MDD/AIMDD適合の一般医療機器 | 証明書の失効または2028年6月30日のいずれか早い日 |
EU IVDD適合の体外診断用医療機器 | 証明書の失効または2030年6月30日のいずれか早い日 |
EU MDR適合の一般医療機器(カスタムメイドを含む)およびEU IVDR適合のIVD | 2030年6月30日 |
この期限は動く可能性が高い状態にあります。MHRAは2026年2月16日にCEマーク機器の受入れに関する協議を開始し、4月10日に締め切りました。提案は3点です。①MDD適合品のGB上市期限を2028年6月30日から2028年12月31日へ延長し、EU側の移行期限と揃える、②EU MDR/IVDR適合品を無期限で受け入れる、③GBでより上位に分類される品目向けに、2030年12月30日からinternational reliance routeを設ける。
提案①が実装されると、後述する「GB側がEU側より先に閉じる」という状態は解消されます。最終的な枠組みは2026年内の公表が見込まれているため、上表の期限で計画を確定させる前に、MHRAの案内で協議結果の有無を必ず確認してください。
ここでいう「証明書の失効」は、EU MDR Art.120(2)により有効とされる期日(同項による延長を含む)を指します(UK MDR 2002 reg 19B(3)(ba))。券面に記載された失効日がそのまま基準になるとは限りません。逆に、証明書が撤回された場合や、2023年3月20日より前に失効しArt.120(2)(a)(b)の条件を満たさない場合は、延長が及びません。さらにMDD/AIMDDルートを定めるreg 19B自体が2028年6月30日23時59分に失効します(同 reg 1ZA(1))。その結果、EU側の上市期限(2027年12月31日/2028年12月31日)よりGB側が先に閉じる品目があります。たとえばクラスIIb植込み機器の除外品目はEUで2028年12月31日まで上市できますが、GBは2028年6月30日で止まります。EUとGBの両方に出している場合は、2つの期限を別々に管理してください。なお、この6か月のずれは前述のMHRA協議の提案①がまさに解消しようとしているものです。協議結果が出るまでは現行のGB期限(2028年6月30日)で計画を組み、結果の公表後に見直すのが安全です。
上市期限を過ぎた後に、すでにGB市場へ上市済みの機器を販売できるかについては、EUのArt.120(4)に相当する明文の規定が見当たらないため、MHRAへ確認してください。
EU側のIVDRの移行期限は体外診断用医薬品のQMSで扱います。
なお、GB市場の市販後監視の要求は、UKCA品かCEマーク品かを問わず対象になります。CEマーキングのまま2028年6月30日まで進む場合も適用されるので、後述の「GB市場の市販後監視」を必ず確認してください。
UKCAとUKRP
UKCAはGB市場向けの別ルートで、UK MDR 2002への適合を示すマーキングです。非滅菌・非計量のクラスI機器と一般IVDは自己宣言でき、それ以外で第三者適合性評価が必要な場合はUK Approved Bodyを使います。UK Approved BodyはCEマーキングのための適合性評価を行うことはできません。英国外の製造業者はUKRP(UK Responsible Person)を1者のみ指定しなければならず、MHRAは英国内の製造業者からの登録しか受け付けないため、UKRPが代わってMHRA登録を行います。UKCAを付す場合、UKRPの名称・住所は製品ラベル、外装、または使用説明書に記載する必要があります。
GB市場の市販後監視(2025年6月施行・CEマーク品も対象)
GB市場では、UK MDR 2002に新設されたPart 4A(市販後監視要求)が適用されます。英国が2024年に整備した The Medical Devices (Post-market Surveillance Requirements) (Amendment) (Great Britain) Regulations 2024(SI 2024/1368・2024年12月16日制定)により挿入されたもので、MHRAの案内では2025年6月16日から施行されています。
UKCA品だけでなく、CEマーキングでGB市場に出している機器も対象です。条文は、reg 19B(MDD適合品)およびreg 19C(MDR適合品)に基づいて上市された機器を名指しで対象に挙げています(reg 44ZL(1)(a)(b))。「CEルートで2028年6月30日まで行くから当面は関係ない」という理解は成り立ちません。対象は施行日以後にGB市場へ上市・使用開始される機器で、治験・性能評価用の機器と、大臣の個別許可に基づいて上市される機器は除かれます(reg 44ZD(1)・(3))。カスタムメイド機器は一部の規定のみが適用されます(同(2))。
実務としては、機器ごとに市販後監視のシステムと計画を整備し(reg 44ZE・44ZF)、重大インシデントはMHRAへ原則15日以内——重大な公衆衛生上の脅威は2日以内、死亡または予期しない重篤な健康状態の悪化は10日以内——に報告し(reg 44ZH)、クラスI等は上市から3年以内に作成して以後3年ごとに更新するPMSR(post-market surveillance report)を、それ以外の機器は上市から1年以内に作成して以後毎年更新するPSUR(periodic safety update report、クラスIIa相当は2年以内・以後2年ごと)を作成・更新します(reg 44ZL・44ZM)。承認機関(approved body)がある機器は、PSURとその更新版を当該機関へ提出します(同 reg 44ZM)。
MDSAP:1回の監査を複数国の規制に使う
MDSAP(Medical Device Single Audit Program)は、1回の第三者監査で参加している複数の規制当局のQMS要求を満たせるようにする仕組みです。市販承認でも製品認証でもありません。認証機関のサービス案内では「MDSAP認証」という言葉が使われ、FDA自身も最終規則の前文でMDSAPを "a certification program"(認証プログラム)と表現していますが、MDSAP調査機関が発行する報告書・証明書は参加当局が相互に活用するQMS監査の結果であり、それによって各国で製品を販売できるようになるわけではありません。
参加している規制当局
PMDAの案内によれば、参加しているのは日本(厚生労働省・PMDA)/米国FDA/カナダのHealth Canada/オーストラリアのTGA/ブラジルのANVISAです。日本は2015年6月からこのプログラムに参加しています。オブザーバー等の位置づけについてはFDAの案内が詳しく、WHOのIVD事前認証プログラム・EU・英国MHRA・シンガポールHSAがオフィシャルオブザーバー、アルゼンチン・イスラエル・ケニア・韓国・メキシコ・南アフリカ・台湾がアフィリエイトメンバーとされています。
ただし当局ごとに位置づけは異なり、カナダでは実質的に必須です。クラスII〜IVの医療機器ライセンス申請には、CAN/CSA-ISO 13485への適合を証する品質マネジメントシステム証明書の提出が必要で(Medical Devices Regulations, SOR/98-282 第32条(2)(f)・(3)(j)・(4)(p)。クラスIIは製造について、クラスIII・IVは設計および製造について証明する)、この証明書は大臣が認定した登録機関(recognized registrar)が発行します(同第32.1条)。Health CanadaはMDSAPへの移行を2019年に完了し、現在カナダで医療機器ライセンスを保有する製造業者はすべてこのプログラムに参加しています。一方、米国では後述のとおり任意です。
日本での使い方:QMS適合性調査での利用
PMDAは2022年4月1日から、MDSAPの調査結果を「本格受入」し、適切な場合にQMS適合性調査申請にかかる調査手続きを合理化しています。受入自体は2016年から実績があり、本格受入への移行は厚生労働省・PMDA・業界団体の意見交換会での合意を経たものです。根拠となる通知は2021年9月29日の薬生監麻発0929第7号・薬生機審発0929第2号「MDSAPの調査報告書の受入れについて」ほか複数が発出されています。
注意点は、"Authorized to Conduct MDSAP Audits" または "Recognition" の状態にあるMDSAP調査機関が調査できるのは、日本の要求事項のうち生物由来原材料に関する部分等を除いた範囲である点です。日本のQMS適合性調査そのものの手続きと準備はQMS適合性調査とは?で解説しています。
米国での位置づけと採否の判断
FDAにとってMDSAPは任意の第三者監査プログラムです。ただし任意であることと効果がないことは別で、FDAは、MDSAP調査機関が発行した監査報告書を、FDA自身が行う定期(routine)のサーベイランス査察の代替として受け入れる方針を維持しています(QMSR最終規則前文のComment 79への回答、およびFDAのMDSAP案内)。これがMDSAPを採用する米国側の最大の実利です。ただし代替の対象として示されているのは定期(routine)のサーベイランス査察であり、原因調査型(for-cause)はもちろん、市販前査察(PAI)やPMA関連の査察まで代替されるとは読めません。また放射線発生電子製品(EPRC:Electronic Product Radiation Control)に関わる活動を行う事業者は、その活動についてMDSAPとは別にFDAの査察を受けます。PMA品目やクラスIIIを持つ企業は、MDSAPを採用しても市販前の査察対応工数は残ると見込んでください。なおFDA自身が査察を行う場合、その手順はMDSAPの監査計画や手順には従いません(QMSR FAQ 13)。これは査察のやり方の話であり、監査報告書を定期査察の代替として受け入れるかどうかとは別の論点です。さらに最終規則の前文でFDAは、組合せ製品(combination products)は現時点でFDAにとってMDSAPの対象範囲外であると述べています(Comment 83への回答。この意見自体は、機器主導の組合せ製品についてMDSAPのモデルを使うよう提案したものでした)。
状況 | MDSAPの効き方 |
|---|
参加当局の管轄する複数の市場(例:日本+米国+カナダ+オーストラリア)に出す | 監査の重複が減り、効果が最も大きい |
カナダに出す | ライセンス申請にQMS証明書が必要で、Health CanadaはMDSAPへ移行済み。実質的に必須 |
日本と米国のみに出す | 日本側のQMS適合性調査が合理化され、米国側もMDSAP報告書が定期(routine)査察の代替として受け入れられうる。ただし代替されるのは定期のサーベイランス査察だけで、EPRC関連活動への査察、for-cause査察、市販前査察(PAI)およびPMA関連査察は別に受ける |
EU・英国のみに出す | 適合性評価と結びついておらず、直接の効果は見込みにくい |
組合せ製品を米国に出す | FDAにとって現時点でMDSAPの対象範囲外 |
日本のQMS省令と海外要求を一本化する実務
海外展開でQMSの工数が膨らむ最大の原因は、国ごとに別のQMSを作ってしまうことです。QMSRがISO 13485:2016を引用した結果、ISO 13485ベースのQMSが日本のQMS省令・米国QMSR・MDSAP監査の共通の土台になりました。設計としては「共通の土台」と「国別の上乗せ」を分けるのが正解です。
上乗せとして管理すべき代表例は、米国は§820.35の記録の記載事項・§820.45の表示と包装の管理・part 803等との接続(§820.10(b))、EUはUDIとEudamed登録・EU代理人とPRRCの体制、英国はUKRPの指定とMHRA登録です。土台の手順書を国ごとに複製せず、上乗せ部分だけを追補として管理すれば、改訂のたびに全文を作り直す必要がなくなります。
記録も同じ考え方で一元化できます。同じ苦情処理記録・設計管理記録が、日本のQMS適合性調査、FDA査察、MDSAP監査の3方向で証拠になります。逆に部門ごとに表計算やファイルサーバーで分散管理していると監査・査察のたびに証拠を集め直す作業が発生し、QMSR下では内部監査報告書やマネジメントレビュー記録もその対象に含まれます。記録の一元化と監査証跡を前提にするなら、電子QMSの導入を検討する価値があります。QMSmartは版管理・承認履歴・監査証跡を標準機能として備えており、共通の土台と国別の追補を同じシステム上で管理できます。
海外展開前チェックリスト
共通
- 進出先(米国/EU/英国)と対象品目を確定した
- 各国でのクラス分類を確認した(日本のクラスと一致しない場合がある)
- MDSAPを使うかを決め、共通の土台と国別の上乗せを分けた文書体系になっている
米国:事業者側の手続き
- 初回登録(操作開始後30日以内、外国製造所は輸出開始前)と登録情報変更時(30日以内)の手順を定め、年次更新期間(10/1〜12/31)を業務カレンダーに入れた
- 米国代理人(1名)を選定し、査察対応時の役割を合意した
- 相手先ブランド供給で、米国側パートナーが表示の内容を変更するのか、自社名を加えるだけなのかを確認し、登録義務の根拠条文(§807.20(a)(3)/(a)(5)/不要)を確定した
米国:品目側の手続き
- 510(k)/De Novo/PMA/届出免除のいずれかを判定した(相手先ブランド供給の場合は、どちらが510(k)を保有するかを供給契約で確定した)
- 設計・材料・製造方法・意図する使用の変更について、新たな510(k)が不要と判断した場合の判断過程・根拠・再評価の仕組みを文書として残す手順を定めた
米国:QMSR
- QMSRの上乗せ要求(§820.35・§820.45・§820.10(b)、生命維持・生命支持機器は§820.10(d)も)を自社手順に反映した
- 内部監査・供給者監査・マネジメントレビュー記録が査察で閲覧される前提になっている
- クラスI相当品について、分類規則でQMSR免除の有無と範囲を確認した(免除される場合、残る要求は記録の管理=§820.35)
EU:体制
- EU代理人とPRRCを確保した(PRRCの社内配置義務の免除は零細企業・小企業のみ。従業員50人以上は免除されない)
EU:市販前
- Annex VIIIで自社品目のEUクラス分類を確定し、Art.52に基づく適合性評価手続とNBを選定した
- (旧指令の証明書を持つ品目のみ)自社品目がArt.120(3c)の5条件((a)旧指令への継続適合・(b)設計と意図する目的に重大な変更なし・(c)許容できないリスクなし・(d)2024年5月26日までのArt.10(9)適合QMSの整備・(e)2024年5月26日までのNBへの正式申請と2024年9月26日までの書面契約)を満たしているか確認した
- (旧指令由来の品目のみ)MDRの市販後監視・ビジランス・登録の要求に切り替えているか確認した(Art.120(3d))
EU:Eudamed
- 事業者登録とSRN取得をEudamedで完了した(2026年5月28日から義務)
- 2026年5月28日以降に上市する機器を、上市前にUDI/機器モジュールへ登録する手順を定めた
- 2026年5月28日より前に上市済みで以後も販売する機器(旧指令由来の機器を含む)を、2026年11月28日までにEudamedへ登録する計画を立てた
- 登録データの定期確認(初回提出から1年以内・以後2年ごと)を業務カレンダーに入れた
英国
- UKRPを1者指定し、MHRA登録の手順を合意した
- GB期限(MDD/AIMDDルートは2028年6月30日。MHRA協議の結果により2028年12月31日へ延長される可能性あり)とEU側の上市期限(2027年12月31日/2028年12月31日)を別々に、自社品目の証明書のArt.120(2)による有効期日と突き合わせた
- GB市場に出す機器(CEマーク品を含む)について、市販後監視のシステムと計画(reg 44ZE・44ZF)、重大インシデント報告の期限(15日/2日/10日・reg 44ZH)、PMSR/PSURの作成・更新周期(reg 44ZL・44ZM)を自社手順に反映した
よくある質問
MDSAPを受ければ、参加国での承認や認証は不要になりますか?
不要にはなりません。MDSAPは参加当局によるQMS監査の相互活用であり、市販承認でも製品認証でもありません。米国の510(k)、EUのCEマーキング、日本の承認・認証・届出はもちろん、カナダの医療機器ライセンスやオーストラリアでの市販前手続きも、それぞれ別に必要です。カナダではライセンス申請の添付書類としてQMS証明書が求められますが、証明書があればライセンスが得られるわけではありません。
FDAに施設登録すれば「FDA承認済み」と表示できますか?
できません。施設登録と機器リスト(21 CFR Part 807)は事業者と品目の届出であり、審査を経た承認・認証ではありません。一方で、登録済み施設で製造され機器リストに載っていなければ米国に輸入できないため(§807.40(c))、市販の前提条件ではあります。ただしpart 812の治験使用の規定に基づいて輸入される機器は、この制限の対象外です(同(c)ただし書き)。
ISO 13485を取得していればQMSRに適合しますか?認証書は必要ですか?
適合には不足し、認証書は不要です。QMSRはISO 13485:2016を引用したうえで、記録(§820.35)と表示・包装の管理(§820.45)の米国固有要求を上乗せし、part 803・806・821・830との接続も求めます(§820.10(b))。FDAはISO 13485適合証明書を要求せず発行もせず、証明書があってもFDA査察は免除されません。ただし不要なのは米国の法令上の話です。MDSAPの監査はISO 13485を基準に行われるため、MDSAPを採用するならISO 13485ベースのQMSが前提になります。カナダではクラスII〜IVのライセンス申請にCAN/CSA-ISO 13485への適合を証する証明書が法令上必須です(SOR/98-282 第32条)。また法令とは別に、取引先との契約条件として認証書の提示を求められることも実務上はあります。取得の要否は米国単独では判断できません。逆にいえば、進出先が米国だけでMDSAPを使う予定もないのであれば、法令上は認証書なしで問題ありません。取引先が契約条件として認証書を求める場合は、規制要求ではなく商取引上の条件として交渉する話になります。
QMSR施行で、FDA査察で見られる記録は変わりましたか?
変わりました。旧規則§820.180(c)にあった内部監査・供給者監査・マネジメントレビュー報告書の閲覧除外はQMSRに引き継がれていません。査察方式も2026年2月2日にQSITからCompliance Program 7382.850へ移行しています。
EU MDRの移行期限(2027年・2028年)は今から使えますか?
品目によっては使えません。Art.120(3c)は5つの条件を求めており、そのうち2024年5月26日までのQMS整備とNBへの正式申請、2024年9月26日までのNBとの書面契約という2つの期限はいずれも経過しています。残る3条件(旧指令への継続適合、設計および意図する目的に重大な変更がないこと、許容できないリスクがないこと)は、延長期間中も満たし続ける必要があります。
日本のQMS省令に対応していれば、海外でもそのまま通用しますか?
土台は通用しますが、そのままでは足りません。QMS省令もQMSRもEU MDR Art.10(9)もISO 13485を基礎としているため共通部分は流用できますが、米国は§820.35・§820.45とpart 803等との接続、EUはUDI・Eudamed登録とEU代理人・PRRC、英国はUKRPとMHRA登録という国別の上乗せが必要です。
英国(GB)ではいつまでCEマークで販売できますか?
MDD/AIMDD適合の機器は証明書の失効または2028年6月30日のいずれか早い日まで、EU MDR適合の機器は2030年6月30日までです。ただしMHRAは2026年2月〜4月の協議で、前者を2028年12月31日へ延長し、後者を無期限受入とする案を示しており、結果次第でこの期限は変わります。北アイルランドはEU MDRが適用されるため扱いが異なります。
EudamedへのUDI登録はいつまでに必要ですか?
2026年5月28日以降に上市する機器は上市前、それより前に上市済みで販売を続ける機器は2026年11月28日までです。Commission Decision (EU) 2025/2371により最初の4モジュールが同日から義務化されました。旧指令の移行期限で上市を続けている機器も対象です。
まとめ
- 海外展開は進出先・規制ルート・監査戦略の3点で決まります。FDA施設登録は届出、CEマーキングは適合宣言、日本の承認・認証は行政処分であり、「取得」でまとめて考えると計画が崩れます
- 米国は2026年2月2日施行のQMSRが現行規則です。ISO 13485:2016を引用しつつ§820.35・§820.45で上乗せし、査察はQSITからCompliance Program 7382.850へ移行、内部監査・供給者監査・マネジメントレビュー報告書の閲覧除外は廃止されました
- EU MDRの移行期限(2027年12月31日・2028年12月31日)は、Art.120(3c)の5条件を満たす品目に限られ、うち申請・契約の期限は2024年に締切済みです。残る条件は延長期間中も満たし続ける必要があり、自社品目の確認が最優先です
- EUではEudamedの最初の4モジュールが2026年5月28日から義務化されています。新規上市は登録が前提となり、既に上市済みで販売を続ける機器は2026年11月28日までの登録が必要です
- 英国(GB)は現行ルールでMDD/AIMDD適合品が2028年6月30日、EU MDR適合品が2030年6月30日ですが、MHRAが2026年2月〜4月に実施した協議で前者の2028年12月31日への延長と後者の無期限受入が提案されており、結果の公表待ちです
- MDSAPは認証ではなく監査の相互活用です。日本では2022年4月1日から本格受入が始まり、米国でもMDSAP報告書が定期(routine)査察の代替として受け入れられうるため、参加当局の複数市場に出すほど効果が大きくなります
- ISO 13485ベースの共通の土台に国別の上乗せを重ね、記録を一元化しておけば、査察・監査のたびに証拠を集め直す作業を減らせます
海外展開を機に文書・記録の管理を見直す場合は、版管理と監査証跡が標準で備わった電子QMSを土台に据えると、共通部分と国別の上乗せを1つのシステム上で分けて運用できます。まずは自社品目について、本記事のチェックリストで進出先ごとの抜けを洗い出すところから始めてください。